第5章 9

 ゴミ一つない砂浜に足跡を作りながら、天笠サラは歩み寄る。

 「どうかしましたか、旦那さまよ」

 赤い長髪を揺らし、半分削れた砂の城の前に立ち尽くすパトリシアへ質問するが、座り込んだパトリシアは振り向かずに返答する。

 「オー…サラ。見てくだサイこの我らの城の有り様を…波にヤラれました…」

 虚しいシャッター音を青空の下で鳴らし、ショックを受けた口調で話しているが、語気は普段通りなので、そこまで精神的ダメージは受けていないなとサラはわかった。

 「はは、そりゃ災難だったね。ナギサちゃんも手伝ってくれてありがとね」

 パトリシアの隣へ腰を浮かせて座り、ナギサを見上げながらサラは礼を言った。

 「どうも」

 ナギサは短く答え、パトリシアを見つめていた。

 いや、正確にはパトリシアが地面からスマホを取り出した際に現れた、スイカに目がいっていた。

 その視線に気づき、サラは三角に切られたスイカを指差す。

 「どしたのこれ?」

 「いや、その、コイツ…パトリシアが地面からソレを取り出した時になんか出てきたんですよね、スイカ」

 「地面から?……あー影から取り出したんだね」

 「影から…?」

 「よくは知らないんだけど、影を通って好きな場所へ行けたりするのよ この子ら。だから地面っていうか影に手を入れて、さっきのベンチに置いてあったスマホを取ったんだろうね」

 「はあ、なるほど」

 「そんで、そん時に近くにあったスイカも一緒に出てきた…んじゃないかな?」

 説明をしながらサラはパトリシアの顔を覗くと、パトリシアは頷いた。

 「そうデスね。その通りデス」

 シラりと答えるパトリシア。

 どうにも素っ気ないその態度にサラは違和感を覚える。

 「なに、どしたの?」

 もしかして長時間太陽に晒されて調子が悪いのかと考えたが、パトリシアは何処か呆れた様にため息をついた。

 「ナンでもナイです。強いて言えば、ココがプライベートビーチで良かったと思ってるだけデスね」

 「…? ふ〜ん」

 よくわからない事を言うパトリシアに相槌を打ちながら、サラは少し離れた所で遊んでいる京子とクラリスを眺めていた。




 日が真上から傾き始めた頃、サラは少し離れた場所を歩く二人に目が向いた。

 仲の良い二人のことだ、こっそりお散歩って所だろう。

 サラの視線に気づいてパトリシアとナギサもそちらを向いた。

 すると、ナギサはサラと同じ様に「仲が良い事だ」と呆れた声を漏らしたが、パトリシアはぎょっと目を見開いていた。

 「お〜い!二人と」

 「サラ!ストップ!」

 サラが立ち上がって歩いている二人に手を振って声を張るが、それをパトリシアは手首を引いて静止した。

 「あによぉ、イチャつく二人を放っておけってとでも言うの?」

 「そうじゃなくて…」

 普段の飄々とした態度は崩れ、どこか必死な表情のパトリシア。

 「どうかしたのパトリシア?」

 パトリシアは後ろから聞こえた声にため息を漏らした。

 サラはパトリシアの対応を不思議に思いつつも、近くに来たカナタとワカバへ笑顔を向けて口を開けた瞬間、目を丸くして、目のやり場に困るというように半笑いして指でほっぺをかく。

 同じく二人を見たナギサは少し顔を赤らめて咳払いをした後に「さ〜て…私はバーベキューの準備でもしてこようかなぁ…ハハハ」と上擦った声とギコちない動きで顔を背けて別荘へと歩き始め、その後を「送ってあげるわ、影移動で良ければね」とパトリシアが追った。

 三人の素っ気ない態度に首を傾げるワカバとカナタ。

 そこへ、人類メンバー最年長であるサラが指摘する。

 「二人とも」

 「はい」

 「なんですか?」

 自分の首を指差しながら、サラは言う。

 「首とか胸元に、綺麗な赤い蝶々がいっぱい飛んでますよ」

 少し首を傾げたまま聞いていた二人は、指摘された場所に気づいて察しがつき、

 「ちょ、ちょっと……着替えていますね」

 「わ、私も〜……」

 恥ずかしそうに、囁き、愛し合ったマークを隠しながら、二人はクラリスを呼んで別荘へ一度帰ることにした。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私の家族『シェアハウスメイト』 バンゾク @banzoku011723

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ