第13話:エイドルースの屋敷
次に目を覚ました時、一番に目に入ったのは高い天井に吊された豪華なシャンデリアだった。
「ん……」
しかし起きたばかりの目には煌びやかすぎて、リルゼムは目を細め視線をずらす。すると美しい彫刻が施された家具や、一目で名匠が描いたと分かる絵画、そして宝石で飾られた調度品などが続けざまに視界に入ってきた。部屋の中央には、重厚な石造りの暖炉も置かれている。
寝ている状態でも分かるほど広い部屋。
ここはどう見ても王国法院ではない。もちろん、リルゼムの自室でもない。なら一体ここはどこだろうと、リルゼムは身体を起こそうとする。だが。
「いっ……」
ほんの少し動いただけで背中に激痛が走り、耐えられずリルゼムは天蓋のついた寝台に再び深く沈んだ。
「いった……ぁ……」
体感したほどのない痛みに、思わず呻き声を上げる。すると不意に隣で何かが動いた。
今まで気づかなかったが、どうやら隣に誰かいたようだ。
「あ……の……」
身体を起こせないリルゼムが静かに声をかけると、まるでその声を待ち侘びていたかのように、大きな影が勢いよく動いた。
「目が覚めたのかっ?」
「うわっ」
いきなり視界の中に現れた男の姿にリルゼムは仰天し、瞠目する。
「さ、裁判……長? なんでここに? それにオレは……」
「暴漢にナイフで切りつけられたことは覚えてるかい? あれからすぐに医師を呼んで治療してもらったんだ。そのあと状態が落ち着いたのを見て、ここに連れてきたんだよ」
「ここ?」
「私の屋敷だ。ここには屋敷専属の医師もいるし、薬も揃っている」
法院の医務室よりしっかり管理できると思い、運んだらしい。
「……は?」
エイドルースの屋敷という言葉に、リルゼムは痛みを忘れて起き上がりそうになるほど驚いた。
──裁判長の家だなんて、これじゃ距離を置くどころか逆効果になるじゃないか!
かなりまずい状態に、冷や汗が流れた。
「あのオレ……大丈夫ですから家に……」
「君は私を庇って怪我をしたんだから、私が責任をとって傷が治るまで世話をさせてもらうよ」
「本当……もう大丈……くっ……」
リルゼムは強引にでも起き上がろうとしたが、燃えるように痛む背中の傷がそれを許してはくれなかった。
最悪だ。別にあのまま医務室に放って置いてくれればよかったのに。思わず舌打ちを打ちそうになる。
「そんな状態で大丈夫だなんて、信じられるとでも?」
「迷惑とか……かけたくないので」
「君が迷惑だなんて、そんなことは天から槍が降ったってありえないよ。とにかく今は余計なこと考えないで、怪我を治すことだけ集中するんだ」
私が支えるからまずは痛み止めの薬を飲もうと、肩の下に腕を差し込まれる。またあの激痛がくるのではとリルゼムは身構えたが、エイドルースの「力を抜いて私にすべて任せて」との言葉どおりにしたら、不思議と痛みは感じなかった。
きっと負担のない身体の動かし方をしてくれたんだろう。
「今夜は私がずっと見てるから、安心して眠っていいよ」
「っ……!」
間近で極上の微笑みを向けられ、不覚にも一瞬ドキッとしてしまう。
あまりにも美しすぎる顔に、磨き上げられた宝石のごとくキラキラしている瞳はさすが少女漫画の主人公、見つめられて心が動かされるヒロインの気持ちがちょっとだけ分かってしまった。
が、それはそうとかなり癪に障る。
確かに【闇粛】の一読者だった頃は格好いいと思ってはいたが、今は違う。目の前にいる男は疫病神なので、わずかだって気を許してはいけないのだ。
──すべては怪我のせい。そう、怪我のせいだ。
人というのは弱っている時の優しさに弱い生き物である。つまり献身的に看病してくれるエイドルースのことを見直しかけているのは、すべて怪我からくる発熱と倦怠感のせいだ。
そう自分を無理矢理納得させ、リルゼムは再びふかふかのベッドの住人へと戻る。
きっと明日にはいつもの自分に戻っていると信じて。
是が非でも家に帰ってやると心に誓って。
現実逃避という名の休養に身を任せるのであった。
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