第1話 オトコを挿す丸い人差し指 ①-2

「会社が移転する前は、小汚い雑居ビルにあってさ、女子社員って私だけだったのよ」


「へえ~紅一点ってやつ?」


 鼻で笑うように煙を吐く。


一点ってやつよ! ある日社長に呼ばれて何事かと思ったら『お前ちゃんとトイレ掃除してるのか! 男は人数多いんだ』って言われてさ!」


「ちょっと待って! トイレ掃除?! マジ?! 業者頼んでるんじゃないの?」


「そんなレベルの雑居ビルじゃないんだって」


「いやいや そういう話じゃないって!」


「とにかく……」


「“とにかく”で済ましちゃうんだ……まあ、いいけど」

 とミスディオさんは肩を竦めたが……

「寝起きで来た~」という投げやりな髪なのにカノジョが動くたびにキラキラと輝く。

 これは女子力というレベルではない!!


「……とにかく、男子トイレ見てみたら……小便器?から溢れかえって床に零れてんのね。 掃除用の長靴、ゴム手履いてさ、小便器に手を突っ込んで陶器みたいな蓋持ち上げたら……」


 私は次の言葉を吐く前に、チラチラこちらを見ている佐藤ちゃんを睨みつけてやった。


「陰毛がビッシリ!!」


 ミスディオさんは無言で煙を吐き、灰皿で火をギュッ!と揉み消した。


「私、大抵の事には動じないけど……さすがにこの時は怒りながら泣いたわ~ トラウマで未だにもずく食べられんもん! そう! 『オトコなんて海の藻屑と消えちまえ!!』って思ったね!」


 また一気に呷って顎をしゃくり、佐藤ちゃんにグラスを突きつける。


「佐藤!てめえ! 『ここでそんな話するな』なんて言ったら、よ!!!」


 佐藤ちゃんはそそくさと背中を向け、へたな玉氷にジェムソンくんを注いだ。



 ちょっとなった。 私はブラウスのボタンをひとつ外す。


 ふと、ミスディオさんの人差し指の爪だけが短く丸く整えられているのに気が付いた。

「何か楽器でも? その人差し指」


「ああ! これね……」

 ミスディオさんは意味ありげを持ち合わせた妖艶な笑みを頬に浮かべた。


男に一瞬でどどめを挿す、鬼的方法を教えようか?」


「いやあ~そんな話、私には縁ないかなあ~」


「そお? 縁、ないのぉ??」

 ミスディオさんは濡れた瞳で子犬のように首を傾げる。


 胸を射抜かれるように可愛い!!

 照れ隠しにグラスを口に運ぶ。

 なんだか更になって、もうひとつボタンを外す。

「うん、じゃあ、教えて」


 ミスディオさんは丸い人差し指を私に示した。


「これは医療処置の応用なんだけど……」

 と、私の髪をそっと掻き揚げ

 唇を近付け

 耳打ちした。


「いつまでもオトコには付き合いきれないから……

 ソイツを悦ばせるような声をあげて後ろに手を回して、人差し指で挿すの。お尻の……を狙って」


「へっ?!!」

 私はその内容に目を見開いた

「ま、訓練は必要なんだけどね」


「えっ??!! えっ??!! ちょっと待って!!……それって?!」


 ミスディオさんは悪魔的にニヤリ!と笑った。


「それって!! ヘタしたら色々じゃん!!!」

 思わず声が大きくなる



「だから、丸く整えるの…… さすがにお客様だからね……ケガさせられないし……」


 私の頭の中で言葉達が線で繋がって……理解したと同時に凄まじい笑いがこみ上げ、大声でケタケタ笑った。

 佐藤ちゃんを始めとして店の中のすべてが凍った。


 いや、ミスディオさんだけは、グラスの縁に艶っぽく舌を滑らせ、カクテルを飲んでいる。


 私を見る瞳の中がキラキラまたたいている。


 カノジョは私の右側に座っていた。


 みんながぎこちなく私にそっぽを向いている間に

 私の右側に体を寄せて

 左手を後ろから回して

 私が逃げない様に肩を掴んた。


 私は迂闊だった。

 ブラウスのボタンを3つも外していたのだ。

 そして先程からミスディオさんから仕掛けられている“愛撫”で……火照っている……


 次の瞬間、ミスディオさんは神技で私の開いた胸元に右手を差し込み、“私”を!!


「うわぁぁん!!」


 叫ぶほどの快感を私のカラダに残して……


 ミスディオさんは席を立った。

「オシッコ行ってくるね~」と手をひらひらさせながら。


 酔いを一気に醒まされた私は、呆然とカノジョを見送った。


 気のせいなのだろうか……

 ミスディオールの香りがまだ私の周りに残っている様だった。




             

      

                      


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