3 もがくように、あがくように
狭い街路で相対することによってその運動性能の差を埋めたところで、その他の部分の差も大きい。
例えば連射速度だ。
両者がほぼ同時に砲を撃ってから、魔導機兵は次弾を撃ち、装甲歩兵はまだ装填が終わらない。
これは砲の設計の違いによるものだ。
魔導機兵の砲はメリンダが持つような個人携帯火器とほぼ同じ構造をしている。
射撃後、ボルトを引いて押し込むだけで次弾が装填される仕組みだ。
一方、装甲歩兵の砲は手動装填だ。
装甲歩兵内の装填手が砲弾を手に持ち、薬室内に押し込んで、弁を閉じてようやく射撃体勢が整う。
その差は戦場では特に顕著となって現れる。
つまり装甲歩兵が二射目を放つより早く魔導機兵が三発目の装填を終えたということだ。
轟音と共に装甲歩兵が大きく揺れた。
転倒しなかったのは装甲歩兵が膝を突いていたからだ。
でなければ後ろ向きに倒れていたことだろう。
そうならなかったのは幸運だった。
だが当たり所が悪かった。
装甲歩兵の盾には穴が空いていた。
そして砲弾は盾を抜けて装甲歩兵の胴部に半ばまで突き刺さっていた。
砲弾の刺さった位置からして観測手の命は絶望的に見えた。
それだけで済めば御の字だ。
鈍い鉄の軋む音を立てて、装甲歩兵は僅かに動き、砲を撃った。
だが観測手を失ったからか、砲弾は大きく左に逸れた。
魔導機兵の左側の建物に突き刺さって、瓦礫を撒き散らした。
瓦礫を浴びた随伴歩兵に多少の負傷者は出たようだったが、それだけだ。
そしてそれっきりメリンダの乗る装甲歩兵はうんともすんとも言わなくなった。
メリンダは信号拳銃を引き抜くと茶の発煙弾を装填して真上に撃った。行動不能を知らせる信号弾。
届け。緑を見て救援に駆けつけようとしている味方がいるのなら、諦めて戻れ。
しかし間に合わなかった。
クルパシカ通りにもう一体の装甲歩兵が現れる。
敵の魔導機兵を挟み撃ちにする形だ。
だがそれもこちらの装甲歩兵が動けばの話だ。
今この瞬間こそ、救援に来た装甲歩兵は魔導機兵の背後を取っているが、魔導機兵が振り向けばそれまでだ。
一対一では魔導機兵と装甲歩兵が戦いにもならないのは今まさに目の当たりにした通りだ。
「撤退して!」
メリンダは思わず叫んだ。
死ぬべき時は、ここではない。今ではない。
だがメリンダのそんな思いを乗せた言葉は届かなかった。
味方の装甲歩兵が砲を撃つ。
振り返ろうとしていた魔導機兵に命中し、魔導機兵は衝撃で蹈鞴を踏む。
そしてバランスを崩した。
足下に散乱していた瓦礫に足を取られたのだ。
無駄じゃなかった。
メリンダたちの努力は決して無駄にはならなかった。
二度外したその砲撃の結果が、いま敵の足下を崩した。
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