File2
はぁ……あ、ごめん。君の唇……あんまり舐めて、吸ってたものだから腫れてしまって……充血して、俺の唾液で赤く光ってる。綺麗だね。
……泣いてるの?
そうだね。婚約、破談になったばかりだものね。かわいそうに。
でも……仕方のないことだよ。
彼に、君より好きな人ができてしまったんだから。これ以上一緒にいても辛いだけだよ。
ん?そうだね。俺が紹介したね。君の元婚約者に彼女を紹介したのは俺だ。そうしたら出会った瞬間から二人は惹かれあって、一ヶ月もしない間に恋仲になった。彼は君との結婚式の日取りまで決まってたのに。
慰謝料はきちんと払うから別れてくれ、って懇願されたって?
可哀想に。
……んー?はは、俺のせいじゃないでしょ。俺が二人を引き合わせたからって、悪いのは俺じゃない。浮気したのは彼だし、婚約者のいる男だろうが自制せず誘惑したのは彼女だ。俺のせいじゃない。彼らのモラルの問題だ。
その事は君も分かってるね。今は少し混乱して、誰かに当たりたい気分なだけ。そうだろう?ね、よく考えて。本当に悪いのは誰?ふふ、黙っちゃった。答えたくないんだね。分かるよ。今は悲しくて、辛くて……欲しいのはそんな言葉じゃないよね。
ごめんね、俺が悪かった。こんなに優しくて素敵な恋人がいるのに、一時の気の迷いで浮気するなんて馬鹿な奴だと思う。別れて正解だよ。むしろこちらから振ってやったと思えばいい。結婚する前に分かって良かったって。
ああ、泣かないで。あいつの為に。……キスをしようね。もっとたくさん。
どうして暴れるの?……浮気?ねぇ、信じられないな。君と彼は破局したよね?君は今誰のものでもないんだから、浮気なんて言葉は当てはまらないよ。それに……ねぇ、今頃向こうもヤリまくってるよ。獣みたいに、お互いを貪り合ってる。ベッドの上で君のことを嘲笑しながら、それで更に盛り上がって、舐めてハメて……盛って狂ってる。あの二人はそういう相性だからね。
……ああ、俺の言葉に傷付いたの。今君の胸を抉ったのは俺の言葉だ。あいつらの言動じゃなくて、俺の言葉を聞いて、そんな悲しい瞳になったんだ。
慰めてあげるね……。こら、嫌々して俺を困らせないで。まずちゃんと俺の声を聞いて。そう、俺の声だけに集中して……そうしたら他の事あんまり気にならなくなってきたでしょ。俺が何を言ってるかなんて意味は考えなくていいんだよ?ただ声を聞いていて。今、どんな気持ち?……うん、そうだね。悲しい気持ちが萎んできたでしょう?今度は俺の目を見てごらん。それで息を止めて。
君は息ができなくなった。空気を吸おうとしても、吸えない。でも息をしないと人間は死んじゃう。どんどん苦しくなる。空気を取り込まなきゃいけない。自力で息ができない人はどうやって息をするの?えー、分からないの?人工呼吸でしょう?さぁ口を開けて。早く。これは不可抗力で、仕方のないことだよ。全て、許されることだよ。
いい子。
はい、苦しかったね。ん……そう、俺から空気を貰うんだよ。そー……舌を伸ばして、上手だよ。絡めて……はい、ごっくんして。まだだよ。今口を離したら、またさっきの苦しいのが来るよ?嫌でしょ。だからもーっとベロベロして、俺の唾液を貰わないと。ふふ、そうそう。飲んで。
ん、息できるようになった?
身体の調子はどう?
今何考えてる?
……分かんない?そっか、そうだね。惚けた顔をしてる……。
キスは続けよう。
キスしながら……俺の唾液をたっくさん摂取して、ぼんやりしてる君に、俺の秘密を教えてあげる。
俺ね、人の好物が分かるんだよ。
他人の愛してやまない味。DNAに刻まれた味とでも言うのかな。それが分かるんだ。
だから彼の食いたくてたまらない味も分かってた。
彼はね、栄養素のない、味が濃いだけの、でも刺激的な味をさ、頭を空っぽにして食べたい人だったんだよ。
君を味わう為の繊細な舌なんて持ち合わせていない、低俗な人間だ。君のことを淡白で、味気ないとしか思えない愚かな男だ。
君はね、調理しだいでどこまでも美味しくなれる最高の人なのにね。
君も今は分からないかもしれないけれど、すぐに分かるようになる。
君が誰を欲しがっているのか。
君の舌が、腹が、身体が、誰を食いたがっているのか。出会う前から君の細胞一つ一つが、一体誰を懐かしく恋しく思っていたのか。すぐに分かる。
今、俺を少しつまみ食いしただけで、こんなにふにゃふにゃになってるんだからね。
これからは俺が君を丁寧に仕込んで、何度何度も調理して、その度に調理方法も味付けも変えて……一生、美味しく食べてあげるね。
幸せだね。
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