物語を書きたい理由
- ★★★ Excellent!!!
小説家になりたいという人がいる。
これって「恋人がほしい」という願望によく似ていると思います。
小説家や恋人というのは相対的な立場みたいなもので、自分自身を規定したり補足したりする称号やトロフィーにも似ています。
小説家になれば、恋人ができれば、それで満足ですか?
糧を得る手段、相対評価、ステータス。
我々が創作したり何かを求めたりする理由は、もっと根源的なものに帰着しませんか?
すなわち
素晴らしい物語を創作したい。
誰かを好きになりたい。
そういった希求する想いが原点にあるのではないでしょうか。
情報化社会の中で、成功者の名前に触れる機会は多くあります。
数多の成功例といった記事に出会います。
世の中には成功者と、自分のような敗者しか存在しないのではないかと悩み始めます。
成功者か敗者か、そういった二極論でしか自分を客観視できなくなり、いつしか自身の創造力は、独自性を失い環境に迎合していく。
そして追従できなかった者は、その夢とも呼べない試行を諦める。
才能がない、向いていない、認められない、できっこない。
きっと多くの想像が、形になる前に雲散霧消していることでしょう。
本作でも、児戯に等しい戯れとばかりに、自身の想いを綴ることを諦めた主人公が存在します。
創作したものを誰かに読んでほしい、いや高評価してほしいという視点はコントロールできない範疇であることに気づけなかったために、物語を紡ぐことを諦めてしまいました。
そんな彼女の前に現れた存在は、創造主に対し一つの望みを求めます。
書かなくなった彼女を責めるでもなく、続きを書けと強要するでもなく、彼が求めたモノ。
それこそが、我々のような創作者に必要な言葉に思えました。
ただ素晴らしい物語を創造したい。
そう思い筆を取った我々は、いつしか他者評価ばかり気にして苦痛を抱えていませんか?
成功者を妬み、嫉み、ルール度外視のテクニックを弄していませんか?
本作は、そんな闇に囚われそうな自身に、原初の想いを思い出させてくれました。
「素晴らしい物語を創造したい」
物語は、誰かに評価されるよりも、まず自分自身で楽しめばいいと思うのです。
自身が読みたい物語は、誰よりも自分が生み出せるはずだから。