第51話 precious time2
「・・・ん、着替え終わったか。サイズの方はどうだ?」
着替えが終わりジェシーが下りてくる。
そこには少しダボッとした印象の着こなしであった。
しかしシャツをインして身体のラインを際立たせ、それでいて余裕のある服装とズボンの裾を折ってジーンズの内側を見せることでシンプルながら良く見えた。
「そうですね。少しブカっとはしてますけど、良い感じです。ありがとうございます」
「そりゃよかった。俺も似合ってると思うし。それじゃあ作業の方を頼むよ」
「はい」
そう言ってジェシーはノートパソコンを開いて手持ちのスマホを接続し何やら準備していた。
恐らくノートパソコンにチェック用のソフトをインストールしているのであろう。
その間にラックはドラッグの作業用コンピュータを触りに行く。
先に起動しておくと作業がしやすいだろうと考えて。
しかしジェシーはそれを見ると慌てて止める。
「待ってください!今はそのコンピュータに触れないでください」
「お、おう・・・」
そう言われてマウスに近づけていた手を上に上げてゆっくりとジェシーの方を向く。
手を挙げて固まる姿はまるで犯罪者に静止を促す警察官との現場のように見えた。
「すみません、思わず生意気なことを言ってしまいました」
「いや、俺の方こそ勝手に触ろうとしたしな。悪かった。この事はジェシーに任せるよ」
「はい」
そう言ってラックはその場から離れいつもの定位置であるダイニングテーブルの椅子に座りコーヒーを飲む。
邪魔をしないように静かにジェシーを眺めながら。
その間にジェシーは作業を進める。
真剣な表情で集中する姿はいつものジェシーのようであった。
髪を耳に掛け色気のある雰囲気で操作を行う。
その仕草がラックには妙に視線を向けざる終えなかった。
コーヒーが冷めるくらいには集中して。
そうして気付かないうちに数十分が経っていた。
ジェシーにとっては大方のウイルスチェックなど数十分で作業を終えるのは十分であった。
「・・・これで完了、ボス終わりましたよ」
「ん、そうか、早いな。ありがとう、それでどうだった?」
「はい、このウイルスは特別害があるわけではなく、少し脅かす程度のものでした。なので恐らく何も情報は抜き取られてないでしょう」
「オーケー、元は?」
「そうですね。ここから少し離れてますね。東側に百キロほどの所にある一般的家庭に反応があります。相手は恐らく学生さんでしょうか。イタズラにウイルスを送ったのでしょうね」
「なるほど、なら態々出向くまでもないか。注意喚起程度にそこに連絡送っといてくれ。二度とすんじゃねぇぞって。」
「フフ、わかりました」
ジェシーは面白そうに微笑み言われたように、ウイルス源に
メールを送る。
軽い脅しの内容を添えて。
「にしてもそんな簡単にハッキングされるなんてな。セキュリティがなってないんじゃないか?何より居場所がバレるなんて」
「そうですね。まあでも、貫通性はそこそこありますので、個人にしては技術はしっかりしています。恐らく相当なハッカーで、腕試しに狙われたんだと思います。ただ貫通が実証されたのであれば満足だったのか、それ以上は何もしなかったのでしょう。居場所も田舎の離れた場所に機器の反応があったからではないでしょうか」
「そうか、なるほどね。全く野良にもそんな輩がいるなんてな。これはもっと警戒して強化すべきだな」
「確かにそうですね。今度サリーさんにお伝えしておきます。報告も兼ねて必要ですし」
「ああ、俺からも言っておくよ。今日はありがとうな、こんなちょっとの為に態々ここ迄来てくれて」
「いえ、必要なことでしたし頼っていただけたのは嬉しかったので構いませんよ」
「そうか、にしても時間も中途半端だな」
と時計を見ると、10時過ぎを指していた。
今からジェシーを送るとなると1時間以上かかる。
帰れなくはないが、ラック自身が面倒くさいと感じていた。
「そうですね。でも適当にタクシー拾って帰りますよ。ボスには迷惑はかけられません」
「何言ってんだ。俺が誘ったんだ、責任は取るよ。それでどうだ。帰るまでそこそこ時間かかるからとりあえず適当に腹拵えして今日はここで寝ていくか?」
「なるほど・・・ん、え・・・?」
ジェシーは聞き間違えたのか、一瞬思考を停止してラックの方を向く。
ラックは何も考えてない様子で、ただ善意でジェシーに提案していた。
「ま、嫌なら送るよ。夜中にハイウェイは空いてるだろうから、少しなら飛ばせるだろうし。もちろん安全運転の範囲内でな」
「いえ、そうですね。確かに帰るにしては遅いな〜と思ってましたので、お邪魔させてもらえると助かります。なんて・・・」
ジェシーは急いで被せるように答える。
まるでラックの優しさに甘えるように。
早口になって是非ともと言わんばかりに述べる。
「ん、そうか。なら決まりだな。それじゃあ早速行こうか、俺はもう腹減っててよ。少し走ったら食べ物屋があるから、夜遅くまでやってるのもあるだろうし、最悪ファストフードでいいなら確かあったと思うからそこで食べようか」
「そうなんですね。・・・何だか意外です」
「え、何が?」
「ボスがそんなお店が詳しく知っているなんて」
「そうか?食べ物屋があるか気になってな。この辺り何にもないから、ちょっとドライブがてら探してたんだよ」
「そうなんですね。納得です。では行きましょうか、途中でお酒を少し買ってもいいですか?」
「ああ、いいよ。スーパーもあったと思うし、そこで買って食べ物はテイクアウトで頼むか」
「はい」
そう言って二人の夜が始まる。
いつもは仕事だけの関係でここ迄一緒いることは珍しいが、ラックからのお誘いに甘えてしまったジェシー。
やはり想いを寄せる人の甘い蜜には誘われるものである。
ラックはラックでただ純粋に可愛い部下に奢るかの気持ちである。
しかしこれ以上踏み込んでしまうとお互いに苦しむことになってしまうということは、まだ誰も気が付いていないのである・・・
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