第4話 prologue4
「ええ、もちろんデズは東アメリカを中心に動いてくれてるわ。それとショーンとアルバは欧州に、ストームは南米に、それと一応偵察でアジアの方にアブラムを派遣してるわ」
「アジア?どうしてそこまで・・・」
「確かにその辺りの地域まで私達は影響を及ぼしてはいないし、流れても私達には殆ど支障はない。けど情報がアジアへ飛んで逆輸入で欧州やアメリカに来たら結局は無駄足になるでしょ?」
「確かにな。中東や東アジア周辺はアメリカや欧州ともよく絡んでる。放置はできないな」
「そういうこと。アブラムには確認が済んだ後でショーン達と合流し欧州の掃除をしてもらうことになってるから」
「なるほど、大方の流れは掴めた。それで俺には西を中心に掃除してほしいと」
「ええ、頼めるかしら?」
男は少し溜息を溢して考える。
しかし迷いはあれど悪い表情ではなかった。
「・・・はぁ、わかったよ。こういう仕事は暫く休もうと思ってたんだけどな」
「それはごめんなさいね。でもやっぱり貴方の力が必要なの。うちのエースだからね」
「そりゃどうも。にしてもお前やデズも気をつけないとな」
「え?」
「お前は婚約者がいるだろ?それも結構有名人の」
サリーの婚約者とは先程説明したこのコーポレーションの表の社長である。
事業の展開に大きく貢献したことで社長へと成り上がり、彼女はその頑張っている姿に惚れてしまい婚約へと至った。
そして彼女の存在も理解している人であるからこそ、表で社長としてこの会社を支えているのである。
しかし急成長した若い会社の若い社長とメディアに取り上げられるほどには世間に知られている存在であり、既婚者であると報道もされている。
もちろん相手が誰かは伏せてはいるが、気づかれるのも時間の問題であり、それによって脅しの材料にされる危険性もあるということを男は指摘する。
「・・・そうね。確かに不安がないって言えば嘘になる。けど逆に有名になったからこそ、多くの人が彼を守ってくれるようになったし、それを踏まえて婚約している以上、組織を上げて守るつもりよ。それに会社内にもパートナーがいる人が多いからね。その辺りの対策はしっかりしてるつもりだし、考えなしに関係を築いてる人はいないと思うわ」
「ま、それもそうだな。それにテズはもうすぐ結婚するとか言ってたはずだけど、アイツは俺らの中で一番強いから心配はないか」
「確かに彼は本当に強いわね。でもお相手の方には私達のような仕事をしてるって言ってないんでしょ?大丈夫なのかしら・・・」
「・・・そうだな。ま、アイツは優しいからな。彼女には普通でいてほしいんだろう。って言っても心配はいらねぇだろ。今までだってやってこれた理由だし。いざとなれば俺が守る」
男は最高の笑みでそう答える。
だが彼が言った以上、それは保証できるであろう。
それくらいの影響力がある理由であり、サリーもそれを聞いて安堵する。
「それは安心ね。でも心配事を言うなら貴方の方こそ心配よ」
サリーは彼を心配する。
真っ直ぐな目で彼を見つめ何かを伝えるようであった。
「俺?・・・俺はそんな繋がりねぇよ。家族や交友関係も絶った。いるのはお前等だけだ。そんでもって強いお前等なら心配はねぇよ」
ヘラヘラと笑って答える。
彼にとって繋がりは最低限で良かったのだ。
この仕事の関係的にもそうだが、彼は疲れていたから・・・
もちろん構成員達とは楽しくやっている。
だがそれはあくまでも浅い繋がり、表面上でしかない。
だからこそ、彼は心配要素はなかった。
「ええ、今はね。でも今後は分からない。新事業を開始すれば面倒を見る人間は増えてくる。そうなれば貴方にはずっとなかった弱点が生まれてくるはずよ。そうなれば・・・」
「バーカ、俺に心配はねぇよ。弱点なんかできないし、仮にそうなっても俺は負けねぇよ」
「ええ、わかってるわ。貴方は負けない。最強の男だから・・・でもそうじゃなくて・・・」
「?」
サリーは何か言おうとして黙り込む。
喉の奥で引き留めるように声を殺した。
ただ彼女が心配していたのは、彼が追い詰められ敗れることではなく、彼の優しさについてであった。
「ま、いいや。それじゃあこの仕事を副業としてやりゃいいんだろ?」
「ええ、そうして貰えると助かるわ。サポーターや構成員も必要最低限は派遣するし、情報もこっちで準備しておくから貴方はいつも通り実行してくれたらいいから」
「了解、それじゃあ今後は買い手として取引先になるわけだ。そん時は頼みますよ、お客さん」
今後は取引相手となることを冗談交じりに言う。
そうして男は資料とファイルを手に取り、立ち上がって扉へと向かった。
話が済んだので、颯爽と帰るようだった。
「ええ、こちらこそよろしくお願いします」
サリーは丁寧に答えた。
会社の代表として無礼のないように。
しかし二人の間柄もあって、お互いに顔は見せなかったが、口元を緩ませ可笑しそうに笑っていた。
エレベーターを降りフロント受付へ向かう。
そこで武器と車のキーを預かり駐車場へ。
立体駐車場は車は殆ど止まって居らず、不気味さを醸し出していた。
「この時間はやっぱりガラ空きだな」
しかしそんなことは気にもくれず車へ一直線。
キーに付いてあるリモコンでドアのロックを開けて中に乗り込む。
手に持った資料を助手席に置いてシートベルトを締め、エンジンを始動させる。
ブロォーンと大きなエンジン音を駐車場に響くように鳴らし準備を済ませる。
「そんじゃ行きますか・・・」
サイドブレーキを下ろし、ギアをローギアに入れてアクセルをゆっくりと踏み込み、クラッチペダルを離していく。
そうして発進した車は近くの高級ホテルへと向かった。
彼にとってずっと住む家は無く、このように転々とホテルや車で夜を過ごすのである。
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