第3話 地獄は続く


日曜日になり岳との親子の時間。


「 岳ーーっ!! 」


「 パパぁーーっ! 」


2人は抱き合い、高く岳を持ち上げる。


「 岳っ! また大きくなったな。 」


「 そりゃそうだよ、もう1年生だよ? 」


微笑ましい光景を見ている雫。

岳を降ろして雫の元に近寄る。


「 岳の事宜しくね。 」


「 おう…… 任せといてくれ。 」


あの日の男の事を聞きたかった。

でも怖くて上手く聞けない。


「 ねぇ…… そのケガどうしたの? 」


「 これ? 転んだだけだよ。

それじゃ出掛けて来る。 」


話していると聞いてしまいそうになる。

でも事実を知ったら死んでしまいたくなる。

それが怖かった。


「 本当大丈夫なのかしら。 」


心配そうに見詰めていた。


不安はさて起き、今日は存分に遊ぶ日。

全てを忘れて楽しむ日なのだ。


「 パパぁ、今日は動物園に行くんだよね? 」


「 そうだぞ、岳は絵を描くのが好きだろ?

存分に動物の絵を描こうか。 」


2人は手を繋ぎ楽しそうに入っていく。

好きな動物を見ては、岳の喜ぶ顔をスマホで撮影しては喜んでいる。


「 パパ! カバの絵を描く。 」


「 そうするか。 」


岳は近くのベンチに座りながら、真剣に見ながら描いていた。


「 上手いもんだなぁ。 」


何も食べずに真剣に描いている。

駿もゆっくりとカバを見ながらソフトクリームを食べていた。


「 パパぁ…… あのカバさんもリコンしたりするの? 」


岳には離婚の意味が良く分からなかった。


「 そうだなぁ…… したりするのかもな。

ケンカしちゃうと仲直りが難しいんだ。 」


「 ならボクがお願いする。

ママの言う事沢山聞く…… 。 」


健気に色々考えてくれていた。

嬉しくて泣きそうになっても我慢した。


「 岳は優しいなぁーーっ!

これは立派な男になるぞぉ!! 」


岳を持ち上げる。

岳も嬉しそうに笑う。


「 絵を描いたらご飯食べに行くぞ。

何食べたいんだぁ? 」


「 んーー と、ハンバーガーと焼き肉とぅ。

それから…… エビフライ!! 」


息子が嬉しそうに話す姿を見て、嬉しそうに頭を撫でた。


「 なら全部食べるぞぉ! 」


2人は楽しそうにレストランに。

どんなに離婚したって2人の絆の深さは全く変わらなかった。


また眠ってしまった岳をおんぶして家に帰って行く。

玄関を開けるといつものように雫が出迎えてくれる。


「 お帰りなさい、今日は何処に行ったのかしら? 」


「 動物園…… とレストラン。 」


目を合わせずにキョロキョロしながら話した。

雫はそんな話し方を見て、何かを思い立ったのか家に迎え入れた。


「 実はね…… 職場で仲の良い男性から、交際しないか?

って話をされて…… 。 」


その瞬間、駿は目の前がぐるぐると回ってしまう。

何かを話しているのは分かる。

でも全く理解出来なかった。


その後どうやって家まで帰ったかは覚えていない。

駿は死んだように眠ってしまった。


雫は深く落ち込んでいた。


「 はぁあ…… いつか言わなくちゃって思ってたけど、あんなにショック受けるなんて。

それは当然か…… 。 」


雫にも深い理由があった。

岳を見ていると父親が必要なのが良く分かる。

金銭面的にも女がで1人では不安でいっぱい。


そんなとき声をかけてくれたのが上司の神崎さん。

スーパーの店長でいつも優しくしてくれる。

バツイチでパートのおばさん達からも人気。


「 良ければ結婚を前提に付き合いませんか?

息子くんも雫さんも…… 面倒みる。

どうだろうか? 」


嬉しい言葉に胸がときめいていた。

返事は直ぐにじゃなくて良いとの事。

雫はその話をずっと考えていた。


次の日駿は河川敷で横になり川を見ていた。

頭の中は真っ白で何もやる気にならなかった。


「 もうおしまいだ…… 。

どうやって生きていけば良いのか。 」


体に力が入らない。

食事が喉を通らない…… 。

無気力でただ時間が過ぎるのを感じていた。


「 待てよ…… どんな男かまだしらない。

可能性はあるぞ。 」


何を思い立ったのか? 直ぐに走り出していた。


着いたのはパート先のスーパー。

息を切らしながら入り口に立っていた。


「 どいつだ…… ケダモノめいっ! 」


店内を殺気だって探していた。

すると1人見たことある男が…… 。


「 あれは…… 。 」


この前に男と歩いているのに出くわしたとき見た男と同じ人物を見つけた。


「 お前ーーっ!! 」


勢い良く走り胸ぐらを掴む。


「 何をするんですか。 」


ネームプレートを見ると店長と書かれている。


「 お前…… 店長なのか…… ? 」


「 はい…… 何かご用でしょうか? 」


ゆっくりと手を離す。


「 すみませんでした…… 。

人違いでした…… 帰ります…… 。 」


店長は何が何だか分からずにいた。

雫が裏方からやって来る。


「 凄い声しましたけどどうしました? 」


「 いや…… 何でもないよ。

でも…… 悲しそうな顔をしていた。 」


何故何もせずに帰ったのか?

正直負けていると感じたからだ。

ルックスにしても地位も。

皆から慕われていて一緒になりたい気持ちも分かった。


「 うぅーー …… ううーーっ!! 」


泣きながら夜の川を見ていた。

そしてゆっくりと川に向かって歩いて行く。


「 もう限界だ…… 夢も希望もない。

俺はこのまま死んだ方が良いんだ。 」


ゆっくりと歩く…… 。

もう生きる気力が無くなっていた。


「 生まれ変わったら…… また2人に会いたいな。」


その瞬間2人との記憶が脳裏を過る。

想い出の数々でいっぱいになり、足が止まる。


「 危ない…… 死ぬにはまだ早いな。 」


思い止まっていたけど、片足川に入っていた。


「 うわぁっ!! 怖すぎ!

いつの間にこんなとこまで。 」


直ぐに出ようとすると、橋の上に女性が居る。


「 あれは…… 女の子?

どうしてあんなとこに? 」


その瞬間に橋の上から飛び降りた。


「 うわぁぁあーーっ!! 」


女の子は勢い良く川に落ちる。

直ぐに駿は川に飛び込んだ。


( 暗くて良く見えない…… 。

ここの川は流れは速くない…… 。

昼間なら簡単に見つけられるのに。 )


駿は息を吸う為に地上に出て空気を吸い、また川に潜った。

暗くて水の中が良く見えない。

時間との勝負…… 頭を使うしかなかった。


「 げほっ! げほっ!!

ダメだ…… 見つからない…… 。

もう流されて行っちゃったのか? 」


1分は経過している。

もう時間がない…… 。

思考を最大限に使う。

助けを呼ぶにしても時間がない。


「 そうだ!! 確か…… 鞄の中に。 」


水中でも使えるライトを取り出す。

何故そんな物があるのかは置いておくにして、直ぐに川に戻る。


( 俺の肺活量もそろそろ限界…… 。

海上保安庁公認のライトだ。

存分に味わうがいいっ! )


ライトのスイッチを入れる。

凄い光で川の中が照らされる。

無駄に何度も潜ったせいで土が舞い上がり、見えにくくなっていた。


( 思ったより流れが速い…… 。

やっぱり流されてる。

待ってろよ!! )


凄いスピードで泳いで流れに乗って下流へ。

すると下流も土が舞い上がっている。


( 間違いない! 女の子が通ったから舞い上がってるんだ。

もう少し…… もう少し息よ、続いてくれ! )


ライトのパワーは凄く、奥までくっきり見えていた。

それ+して駿の目はかなり良い。

絶対に見つける自信しかなかった。


バチャッ!!

駿は1人の女の子を持ち上げて岸に上がる。


「 げほっ!げほっ! げほっ!!

迷惑かけさせやがって。 」


意識が失くなりそうになりながらも、呼吸が止まっているのを確認する。


「 目を覚ませ…… 戻ってこい。

死ぬなら離婚されて、新しい人に奪われてからにしろ。

戻ってこい! 戻ってこい!! 」


お腹を何度も押した。

色んな本を見ていたからやり方は分かっていた。

実戦は初めて。


「 戻ってこい!! 」


勢い良く押すと大きく水を吐いた。

そして苦しそうに息を吹き替えした。


「 えっへ…… へへ。

これで…… 大丈夫…… 。 」


安心してしまい気絶してしまう。

かなり騒いでいたので人が集まってきた。

直ぐに救急車で2人が運ばれる。

女の子の命に別状はなかった。


その日に駿は英雄としてニュースに取り上げられる。


「 女の子を救った天才脚本家 」

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