うしろなんて、

sui

うしろなんて、


 正しく、道を外れず、計画的に。真面目にコツコツ日々を重ねて人に連なり、折れるべきには折れて。

 そんな人生が幸せだって、散々言われたものさ。

 やってみた。己だって幸せなんてもん、味わってみたかったからね。

 でも結局出来やしなかった。


 どこへ行っても味噌っかす。

 頭が利かない、体が利かない。ついでに気だって利きゃしない。

 重ねた辛抱はいくつだったか。

 自分にとっては溢れる程でも他人様に比べれりゃ、きっと片手に乗っかる位でしかないんだろうね。


 だって出来ないもんは出来ないのさ。

 人一倍努力しなきゃ人並なんてなれやしない。なのにそれがどうしたって成らない。どうしてなのかも分からない。

 じゃあもう人並以下で居るしかない。


 親切ぶって寄って来た奴は呆れて何処かへ行っちまった。

 真面目な奴は頭を抱えっちまうから、見てるこっちが罪悪感で潰れそうになった。

 結局同じ位のクズと悪人しか残らなかった。


 そんなどうしようもない、どうにもならない場所で、せめて楽しくしてやろうって思うのが、大罪だって言うのかね。



 教科書も何もかんも投げ出して、夜中に家を抜け出して。

 痛い思いをした事もある。間一髪だった事もある。でもまぁ死にはしなかった。

 同じ事をして後悔した様なのも居る。でも己はそうはならなかった。


 指折り数える迄もなく、薄々見え始めた先の景色に「ああ」と唱える、今はそれだけさ。



 愚かだと思うなら笑えばいい。

 見下したけりゃあそうすりゃいいさ。


 後ろから追い抜いて行った冷たい風。流れた髪が張り付く重み。視界を染める色とりどりの光。

 嗅いだ海の匂い、触れたコンクリートの感触と熱。


 言葉にしたってし切れない。あの時のあの喜び。


 お前等になんて一片たりとも分けてやりはしないンだから。



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うしろなんて、 sui @n-y-s-su

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