第50話 その後

 私が起きるとちょうど目的地に着いた。

近くに病院がある。

ワイバーンと別れた後で人の姿に変身し、病院の中に入った。

 そこにはたくさんの負傷した人たちがいた。

その中で見慣れた姿をした人たちが集まっている箇所があった。


 先ほどまでいた勇者パーティに今まで同行していたラン、シズク、ロルグがいた。

ランはひたすら泣いていた。

「ソラ、無事だったの」

「ああ、だがジョセーヌに関しては」

「それについては僕たちが先に話しといたよ。

彼女はあの魔族ミラの形見に倒された。

今回帝国兵がほぼ壊滅したのもそいつのせいだよ。

ここにいる兵士たちから恐れられて『国殺しの魔女』と呼ばれているくらいだよ。

おかげで帝国も存亡の危機に立っている」


 そんな野蛮な通り名はやめてほしいんだが

「そういや君は最後までジョセーヌといたらしいがその後はどこで何をしていた?」


 勇者アレンが睨みつけながら言ってきた。

「その『国殺しの魔女』とやらが来て、あなたじゃ勝てないから逃げてと言われそのまま逃げていました。

その後はワイバーンたちにも襲われながら、ここまで逃げた次第です。

シズク、そっちはどうなったの?」


「ノースランド市内でグールたちと戦っていました。

最初は優勢でしたが、ワイバーンの群れが来てからは逃げることしかこっちもできなかったわ」


「ソラさん、こちらの戦闘についてなんだけど、川の向こう側にいた人たちは空を飛べる聖魔導士や帝国魔導士以外は魔族に囲まれて全滅していると考えられるわ。

だからあなたの両親もきっと…」

「そうですか、それは残念です」


 あの二人ならたくましく生きていることだろう。

「それでね。ジョセーヌさんから戦いの前に託された言伝があるんだ。

『今まで私のたびに付き添ってくれた4人は若い才能にあふれている。この戦いが終わったら全員を総合魔法学校に入学させて』と言われているわ。

なんで前線に行かないのに言ってくるんだろとは思っていたけど、もしかしたらこの展開を予期していたのかもしれないわ。

お金については心配しないで、私たちが出すから」


 どうして、こんなことをしたのだろう。

彼女は戦う前はラン以外の私たち3人を怪しんでいた。

会話を思い出すに魔法の使えないロルグも隠している可能性を考えて容疑者候補には入れていた。

 それくらい考えているくらいだからこれも何かしらの罠だと考えることもできないか?


 そういった話は事前にこの勇者パーティにしていたのだろうか。

分からない、だがもっと強くなりたい。

圧倒的な力でこいつらを倒してやりたい。

 ジョセーヌが悪知恵を働かせていたのかもしれないが逆に奴を利用してやる。

おそらくまだ戦いの高揚感が残っていたのだろう。

少し冷静になるべきかもしれないと考えてしまう自分もいる。

だがもう返事は決めた。


「入学させてください。お願いします」

「私も入学させてください。お姉ちゃんの命を奪った残虐な魔女を倒さなくてはならないから」

「あのすいません。俺は魔法全く使えないのですが」

「あの学校は戦士科もある。俺もそこで鍛えたよ。

今回の戦いで傭兵をほとんど失っちまって、金がほとんどねえんだ。

払った分に見合う分だけ強くなれよ」

「あのすみません。今帝国の戦線が崩壊して絶賛侵略されている時ですよね。

私たちがこんなことしている暇はあるんですか」


 シズクが至極まっとうな質問をした。

「余裕はないがかといって君たちを今の状態で戦ってもらうよりかは成長した後で戦ってくれる方が助かる。

現状の戦いについては僕たちを信じてほしい」

「分かりました。そういうことなら私も受けます」


 こうして私たち全員の行き先が決まった。

さてあの二人は大丈夫なのだろうか。




 私の率いていた帝国兵はいなくなり、ただひたすら逃げ回っていた。

「ラルゲン侯爵、ご無事でしたか」

 そこにいたのはハンヌと呼ばれていた人物。

ここまで生きていたということは相当強いのだろう。

「よかった。ぜひ護衛として今から私を守ってほしい」

「すいません無理でーす」


 そう彼女が言った後、私の腹に痛みが走った。

彼女の手から血でできた剣がそのまま私に向かって真っすぐ飛んで突き刺さった。

「なぜ…こんなことを」

「死ぬ前に一つ聞きたい。スカルと秘密裏に接触していたらしいがどこまで話が進んでいたんだ」

「なぜそんな質問に答えないとならないんだ」


 そう言った瞬間次は私の腕に血の剣が刺さった。

「答えてくれたら、治療してあげるよ」

「分かったよ、話すから落ち着いてくれ。奴が困っていたのはソウルイーターという生物の死ぬ瞬間に放出する微小な魔力しか得られないスケルトンの能力についてだ。

作物で栄養は取れないし、魔物の殺害については徹底的に魔王が管理している。

基本野良の魔物以外は殺してはダメ、だがスカルの住んでいる地域にはほとんど野良の魔物がいない。

おまけに魔王は他の魔族には飼育していた魔物の肉を供給しているのにスカルには供給していない。現地調達すれば済む話だろという。スカルもこんな強制的に虐殺することは望んでいなかったよ。だから私の領地で飼育している魔物の処分をスケルトンにさせて、その肉は領民が食べる。

大雑把に言うとこういう共存を目指していたんだ」


「でもそれ何かと障害が多そうだよね」

「そうだ。まず魔族たちから裏切り者として一斉に攻められる可能性、そして私たちも帝国の首都にいる本部隊や教会の聖魔導士に狙われる可能性がある。

教会は各国の領地をだれが受け持つかを指示してくるほどの絶対的な権力を持つ。魔族には知れ渡っていないと思うが聖魔導士は強力な力を持っていて魔導士キラーとしての側面があり各国から恐れられていて…」

「教会についてはもういいよ、もうあらかた聞けたからいいかな」


 そう言ってサミエラは彼の首を落とした。




 戦いが終わった後、リュグが俺に話しかけてきた。

「君の新たな配属先は決まった。魔族として北方での侵略を行う部隊を受け持つ。

君が操ることが出来る近縁種のハンターウルフ、それにスカルがなくなったことで受け持つことになったスケルトンたちだ」

「ちょっと待ってください、急に魔族として指揮官になれとのことですか。

自分がなんて言われているか知っているでしょう。狼男で半端ものや半人半魔族って」


「魔王様の意向では使えるものは黒だろうが白だろうがグレーでも使えってことさ」

「では率いる舞台にスケルトンがいるのはどうしてですか。

原則、魔族は自分と似た種族は強制的な命令で操ることが出来るので、そう言った種族だけで構成されています」

「仕方がないだろう。スケルトンを操れる魔族がいないんだから

これは魔王様も不本意だが、スケルトンに関しては見なし指揮官ということだ」


 見なし指揮官、その種族に魔族がいない場合は他の種族の魔族によって指揮される。

だがこの魔物たちは強制的な命令を下すことが出来ない。

しかも、奴らはとても血気盛んなスケルトン、とてもいうことを聞くとは思えない。

強力な力こそあれば別だが俺にはない。


「さすがにこれは」

「できないのか、お前もそうやって愚痴しか言えない敗北主義者か」


 こんなところでつまずいてはいられない。

せっかくのチャンスでもある。うまくいけばレーリエとの同盟も現実となるほどの地位が得られる。

「分かりました。やってやりましょう」

 

 この惨酷で歪んでいる世界を一刻も早く変えなければならない。

そうしないと永遠に悲劇が繰り替える。


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