第47話 バンvsレーリエ
俺はさっきまで馬車にいたはずだが、今空中に吹っ飛ばされていた。
「あんた、獣人自治領でもお世話になったよね。
ここらで再戦といこうじゃないかい」
「なぜそう思うんだ」
何か致命的なミスでも残しただろうか。
「あんたのにおいで分かったよ」
そうかにおいで分かったんなら仕方ないか。
「あんたの名前はなんなのさ」
「バンだ」
「私はレーリエ、よろしくね!」
『ね!』と言った瞬間にこっちの体がまた上空で吹っ飛ばされた。そして今度はジャンプで俺の上まで来て、思いっきり俺の腹をけられそのまま地面にたたきつけられた。
相変わらずの戦闘狂だ。
空からそのままこちらに向かてまた蹴りを入れようとしていたのですかさず躱した。
おちおち休む暇もない。
彼女は前と同じように氷漬けにする道を俺まで伸ばしてきた。
それを必死に躱しながら遠くへ逃げていく。
「こら、逃げるばっかでずるいぞ。正々堂々と戦え」
無茶を言うな。
相手は馬鹿力かつ氷魔法の使い手、上回っているスペックは一つもない。
戦いのさなか狼男に変身したがそれでも戦況は変わらない。
距離をとっても速度の差からすぐに追いつかれて素手で攻撃を振るおうとしてくるすかさず剣で応戦しようとするが、相手も氷の剣を作り出して受け止めた。
そして逆に持っていた剣をはじかれ、足を刺されてしまった。
「ぐあっ!」
その後は彼女にひたすら殴られた。
腹も顔も、容赦なく殴られて腫れていた。
姿勢を維持することが出来ずに仰向けに地面に倒れた。
その後も馬乗りにされ顔や腕、腹を思いっきり殴ってきた。
執拗な暴力だ。なんとなく彼女のことが分かってきた。
「あんたは楽しそうに暴力をふるうが、そんなに力に絶対的な信頼を抱いているのか」
「そうだよ。力さえあれば誰にも奪われないからね」
「なら、それは過去に奪われた経験によって得られた心理なのかな」
「…ああそうさ、私たち原初の獣人は見た目が人間と違うというだけで迫害された。圧倒的な帝国の武力でね」
「同情するよ。俺も見た目が違うというだけで実の両親から化け物と言われたことがあるよ」
「同情を誘う気?もうくだらない戦いを終わりにしよう」
「ここで俺を殺したって、あんたは何も変わらない。何も安心できない。
自分自身を変えるんだ。奪われる側じゃなくて奪う側になれ」
「はあ?なにを言って…」
「連絡です。魔法で作られた橋が崩落してレーベル川は封鎖されました。
これから食料を送ることが出来ず、前線の部隊が孤立することになるかと…」
その瞬間報告していた帝国兵がワイバーンに食われた。
「何が起こって…」
食料を運んでいた馬車も次々とワイバーンに攻撃された。
「このまま帝国兵は孤立し全滅、帝国の力は一気に弱まる。その隙に君たち獣人が帝国から今までの分奪い返せばいい」
「だから見逃せと?」
「どちらにしろこのままここにいたら、大量のワイバーンに食われる。
ここは少し遠いがあちらに気づかれていないが、殺す前に俺が大声を出せばどうなるかな」
「分かった。戦いはお預けで」
「そうじゃない。協力体制を組まないか。
魔族も腐っている部分があるから、ずっと他者から嫌われ続けて憎しみが生まれる。
姿が違うとしても、同じ考え方や感情を持った同類だと人間に示さなければならない。
それはあんたも同じだろ」
「…具体的なことを言ってくれへんか」
「俺が魔族の中で力をつけて上の立場に成り上がる。そしたら二人で一緒に国を作らないか。
そこで人間たちにも力を使って交渉するんだ。今まで帝国の、魔族の駒として扱われた俺たちがプレーヤーとなって対等な立場になるんだ。
そうして真の安全と平和を俺たちで作り出す」
「…いいよ。その話乗った。ただしあんさんが魔族の中で強い立場を得るのが絶対条件やで」
「ああそれで構わない」
「あんだけぼこぼこにされたのにえらい自信やな」
「何も個人の力だけが重要じゃない。個人で強かったあんたでも帝国には逆らえなかっただろう。見ておけ。魔族の中で盤石な地位を築いたるで」
「その言葉に免じて、戦いを交わした仲としてそちを信じたる。
くれぐれも失望させんといてくれよ」
「ああ、そっちもな。人間社会に確固たる地位を築けよ」
そう話し終えた後レーリエは川の方へ向かって走り出した。
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