もしかして俺の人生って詰んでるかもしれない

バナナ男さん

1 根暗の根本君とキラキラ空野君

「あのさ~。根本君にはハッキリ言わないと分からないみたいだから言わせてもらうけど……もうちょっと空気読めない?

分かる?分かるよね??全然自分と空野君が釣り合ってないって。」



ふわふわパーマのロングヘア。

まるでお人形の様なぱっちりお目々に、色白の肌に華奢な体……。

お姫様のような、文句なしの美少女である<蝶野 舞子(ちょうの まいこ)>に睨まれ、俺<根本 源(ねもと げん)>は固まった。


日本人の平均的身長に平均体重……顔も全てのパーツが大きすぎず小さすぎずの、いわゆるモブ顔。

唯一付けてもらった事のあるニックネームは、《根暗の根本君》だ。



『根本君ってぇ~印象に全く残らない顔だよね!』


ちなみにこのセリフは、小学生の時に片思いしていた女の子から初めて話掛けられた時のセリフである。


「は……はぁ……。」


とりあえず、気が抜けた返事を返したのだが、これが良くなかった様で……蝶野さんは盛大に顔を顰めた。


「話もまともにできないの?

だ〜か〜らぁぁぁ〜空野君の側に金魚のフンみたいにつきまとって迷惑だって言ってんの!なんでそれが分からないのかな?

空野君は優しいから、アンタを気遣っていつも遊べないじゃん。

もう少し自分のランクと釣り合った友達を作んなよ。暗くてダッサい友達をさ〜。

もしかしてカッコいい空野君の側にいれば、自分もイケてるとか思ってる?────うわ〜ドン引き~。」


「え……えぇぇ~……?い、いや、俺そんな事────……。」


流石に酷すぎると思い抗議をしようとしたが、その後は100倍……いや1000倍返しとばかりのマシンガントークを撃たれて早々に白旗を振る。

すると言い返さない俺を見て『勝った!』 と思ったのか、蝶野さんはフフンと得意げに笑った。


「分かったら、明日から空野君と距離をとってよね。

空野君は完璧な存在で、アンタなんかが側にいていい人じゃないんだから。

キモオタの陰キャはとっとと消えろ、キモいんだよ!このゴミ男!!」


そう言い残し、蝶野さんは大きな舌打ちと共に去っていった。



「…………。」


────ヒュルル~♬

一人残された俺に、冷たい木枯らしが吹きつける。

俺はガックリと肩を落とし、話題に上がっていた『空野』という人物について思い浮かべた。


<空野 翔(そらの かける)>は、大学三年生になった今も仲良くしている俺の幼馴染だ。


初めて出会った幼稚園の頃から、翔はそりゃ~もう!周りとは全く違う圧倒的な存在感を持っているヤツであった。


まずは外見。

母親が外国人かつめちゃくちゃ美人らしく、くっきりした目鼻立ちのハーフ顔にプラチナ色のサラサラヘアー。

更には女子の好感度No.1の細マッチョ体型に、日本人の平均を遥かに上回る高身長、足の長さなどは普通サイズのズボンを買うと確実に丈が足りないという……まるで女性の理想をこれでもかと詰め込んだ、二次元のイケメンヒーローの様な外見をしている。


しかもそれだけではない。

翔は天才的な頭脳と、運動神経だって突き抜けた才能を持っていた。


テストは常に100点満点!運動をやらせれば即レギュラーだし、どんな競技大会だってヘルプで出て圧勝ときたもんだ。

それも特に努力してではなく、俺と共にチャランポラ~ンと遊んでいるにも関わらずなので、多分本物の天才ってヤツなんだと思う。


「金魚のフンか……。」


他人から見た自分の立ち位置を改めて突きつけられて、もはやため息も出なかった。



『源が行かないなら俺も行かない。』


そんなキラキラ王子様の様な翔と仲良くしたい人達は、それこそ星の数ほどいて……スクールカースト頂点ランクの蝶野さんや、他のキラキラ男女メンバー達も事あるごとに誘っているが、こんなアホみたいな理由でアッサリと断っている様だ。

それが一度ならまだしも数十回も超えてくれば────徐々に不満が怒りへ変わり、直接ぶつける様になってくる。


……俺に。



「────って、俺なんにもしてねぇ~じゃん……。」


ビシッ!と何もない宙に思わず突っ込んでしまい、空振りした手が虚しくて泣きそうになった。


そんな完璧な王子様な幼馴染とずっと一緒に過ごしてきた俺。

当然何を頑張っても常に翔と比べられるし、翔が何かすれば俺のせい。

翔が我儘を言えば、俺は我慢を強いられてきた。



『翔君は凄いわね〜。それに比べて……。』


『空野君を独り占めしないでよ!最低!』


『根本君が我慢してあげなさい。』



「まぁ、多少は仕方ない事だけど、毎度これじゃあたまったもんじゃねぇよ。」


一度や二度ではない理不尽な扱いを思い出し、モヤっとした感情が顔を覗かせる。


『もう翔と一緒にいたくない!あっちいけ!』 

そう本人にハッキリと怒りをぶつけた事だってある。

それに何度も勝とうとして戦いを挑んだり、小賢しい作戦を立ててはそれを実行したりもしたが、全て華麗に流されてしまった。

ズタボロに負けて負けて、何をしても隣に居続ける翔を見て────俺はとうとう一つの答えに辿り着く。


自分は自分。

別に翔が直接意地悪してくるわけじゃないんだから、もうどうでもいっか!


そう思ったら、翔はなんだかんだで居心地の良い友達かもしれないと思い始めた。

器用だからいつも俺のペースに合わせてくれるし、俺が行きたい場所へ文句も言わずに付き合ってくれるし……。

さり気なく俺が好きなモノをくれるし、あれやこれやと面倒もみてくれる。


あれ?翔って意外に優しくていい奴!────というのが、今の所、翔に対する俺の評価であった。


「う~ん……。やっぱり俺が悪いのか……。確かに金魚のフン……かもなぁ~。」


悶々としながらも、とりあえず家に帰るため、俺はゆっくりと歩き出した。

そして道中もそのまま翔の事を思い返していると、確かにそう言われても仕方がないくらい翔の方が負担が大きいのかもしれないと思う様になる。

まるで連想ゲームの様に、あれやこれやと考え込んでは頭を抱えた

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