第8話 光
午前5時。まだ外も暗く、鳥も鳴いていない時間。イリウスはよく眠っている。
「おーい!イリウスー!起きろーーーー!!!」
イリウスはその声で驚き飛び起きる。まだ寝ぼけている中ケルトさんの方を向き考える。
(そうだ、今日は出かけるんだった)
イリウスは目を擦りながらケルトさんにおはようのお辞儀をした。ケルトさんは起きたのが分かったら出かける準備をしに自室に戻る。その内に着替えをしたり顔を洗ったりして準備する。出かける準備が完了したらケルトさんの部屋に向かいドアを開ける。
「お、準備出来たか?寒いからちゃんと厚着してけよ?」
イリウスは準備出来たと言わんばかりの自信満々な顔をして上着を羽織る。起きてから10分もかからず支度を終わらせ玄関で靴を履く。
「じゃあ行くぞ」
そう言ってケルトさんはドアを開ける。やはりまだ真っ暗だ。こんな時間からどこに向かうのか不思議がるがそこまで気になるほどじゃない。何の会話がなくてもイリウス達はひたすら歩いていた。
所々走っている人が居たりしたが、それでも昼間の人数に比べれば居ないも同然だ。しばらくしてイリウスが歩くのに疲れてしまった。歩く速度が遅くなっていき、ケルトさんもそれに気付く。
ケルトさんは時間は無駄に出来ないと言わんばかりにおんぶしてくれて、温かい背中に身を委ねながら進む。
ざっと1時間ほど経った頃、空が少しずつ黒から青になっていく。いっぱいにあった星も薄く、輝きを失ってくる時間だ。
イリウスが周りを見渡すと、山のような所だった。どこに向かってるか分からないけどケルトさんは山道を全く息切れもせずに登っている。
「そろそろ着くからな」
ケルトさんがそう言うのでイリウスも楽しみになってきた。この先に何があるのか。本当にすぐ目的の場所に着いたみたいだ。ケルトさんが立ち止まり、イリウスを降ろす。
着いた場所は崖みたいな場所だった。奥には海が見えて、地平線は朝日の登る前の赤色に染まっている。イリウスは初めて見る海と冷たい風に連れられてくる磯の香りにん!ん!と全力の笑顔で喜ぶ。
「そろそろ朝日が登るぜ。そりゃーもう綺麗でな〜。他は誰も知らねースポットなんだぜ?」
ケルトさんはイリウスに向けて笑顔でこう言う。しかし、その笑顔もすぐに無くなり真剣味を浴びた表情で少し経った後すぐに口を開く。
「俺な?やっぱりお前を人間界に帰したくねーよ…お前は俺と同じになっちゃいけねー。ちゃんと自分で頑張って報われねーなんて絶対ダメだ。」
そうケルトさんは言うが、イリウスは何も反応出来ない。何よりも仕方がない事だし、自分にもそう言い聞かせている。けど、もし、それが叶うなら…。
そう少しの希望を見出した時、ケルトさんがまた笑顔を戻して後ろから箱を取り出す。リボンで結ばれている小綺麗な箱だ。
「じゃーん!プレゼントだ!開けてみろ!」
ケルトさんがサプライズでくれたプレゼントにイリウスは目の輝きが止まらない。箱の大きさはとても大きい。期待し切った顔で箱の開け方を考える。普通に上に開ける箱ということが分かったイリウスは嬉しそうに箱を開ける。中で紙に包まれている物を取り出し、顔の目の前まで持ってくる。
中に入ってたのはキラキラした緑色の宝石がたくさん付いているドーナツ型の何かだ。指輪…にしては大きいし、腕輪…にしても大きい…。イリウスがそうして悩んでいると、
「着けてやる、貸してみろ」
そう言ってケルトさんに任せると、ケルトさんはそのアクセサリーを首に付ける。
「じゃーん、首輪だ」
イリウスは嬉しかったが少し複雑な気持ちにかられる。自分の事をペットか何かと思っているのかと想像して顔をムッとさせる。
「はっはっは!安心しろよ!ペットにする気はねーしそうも思ってねーよ!」
ケルトさんがそう言うとイリウスも安心する。
「首輪はな、持ち主が自分の物に着けるようなもんだと俺は思ってる。だから俺はお前にこれを渡す」
イリウスは何が言いたいのか分からないみたいだ。
「俺はお前の父親なりたい」
「!」
イリウスは予想外の発言に驚く。そしてそれ以上に嬉しい気持ちがあった。
「俺はよぉ、お前が楽しそうにするのも、嬉しそうにするのも、拗ねちまってる所だって見れるのがすげー嬉しいんだ。それとな、お前が悲しんだら、泣いてたり、不幸になっちまってるのを想像するだけでよぉ、めちゃくちゃ怒っちまうんだぜ?人間に対してこんな気持ち沸くの初めてでよ〜。俺はお前と離れたくねー。だからな?…俺をお前の親として見ちゃくれねーか?お前は俺のもんになって、誰にも手は出させねーし、1人にしねー。約束だ!」
イリウスは涙が溢れてくる。隠しても隠しきれないほどの笑顔で、涙が頬を伝う顔で、イリウスは答える。
「………は……い…」
イリウスの呪いが解ける。繋がれていた鎖が散り散りになって消える。
2人を輝く太陽が照らす。イリウスの涙すら宝石のように輝いて見える。
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