第2話

 わたしは、必要とされたことが、ない。

 よほど幼いころから、家族はなかった。

 女の子としての身の上には、不釣り合いなことだったが、運動神経だけは、よかった。

 だけれども、それだけだった。

 ほかには、なにもない。

「ア! くろいお姉さんだ!」

 客席の子どもが、わたしの顔をみて、そういった。

「こらこらっ! くろいだなんて、おおきな声で、いわないの!」

 窘めるのは、大人の声。

 ここは、移動雑技団の設えた、舞台だ。

 いまから、剣舞を披露するのである。

「さあさあ、お待ちかね! これより女奴隷による剣舞をはじめます!」

 客席にむかって声をはりあげたのは、客引きだ。

 わたしを客に、紹介しはじめた。

「これなるは、俊敏なる女奴隷、名をスジャータ!」

 わたしは、客席にむかってペコりと礼をした。

「きょうの演目では、このスジャータが、剣をふるって活躍します!」

(パチパチパチパチ……!)

 客からあがる、拍手。

 客引きは、さらに説明をつづける。

「このスジャータが、今夜たたかう相手は、ズバり魔です!」

「オオ!」 「こわい……!」 「ウワ~!」

 客席から、声があがる。

「闇の眷属それも、夢をくらう妖魔!」

 舞台奥にかかっていた段幕が、暴かれる。

 中から、あらわれたのは……。

「……夢魔で、ございます!」

(ゴオオオオオオ……! グルグルグルグルグル……!)

 あらわれた夢魔が、吼えた。

「きゃあ!」 「本物か⁉」 「出てきた!」

 客席から、またも声があがる。

 段取り通りだ。

 だけれども、どこか、おかしいようだ。

(ガアアアアアアア~~~! ウオオオオオオオ……!)

 妖魔の声が、やけに重い。

 もしかして、……本物なのだろうか?

「さあさゴ覧ください! 今夜は、このスジャータが、妖魔を退治します!」

(((パチパチパチパチパチ……!)))

 またもあがる、拍手だった。

 だけれども、わたしは不思議と、気が重かったのだ。

(ハっ……! ハっ……! ハっ……! ハっ……! ハっ……! ハっ……! ハっ……!)

 この、夢魔役である獣の、鬼気迫る迫力は、なんだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夢の剣 ヘンなやつ @sunguorrung01

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る