第23話 魔法使いの誕生
「えっ……? この人、なんか変だ……」
「どうかしましたか?
「いや、この被害者に触れたら、俺の魔力器官が脈打った気がして……気のせいかな」
そう思った瞬間、俺の目にも辛うじて
俺と被害者の間に割って入った
重体だと思っていた被害者の手には鋭い刃が握られている。
『おや? 気付かれるとは思っても見なかった。最高
「なっ……それじゃあ、俺が動いたと思った指先は」
『我が動かした。ただ、生きているのは本当だ。この空間内、だけではあるけど……。これ以上、傷をつけなかったら、外に出ても生きている可能性はある、かも?』
これが本来のあやかしなのか……。
目を凝らしてみて分かった。被害者には細い蜘蛛の糸のような
「なんて
「あっ、ああ……。大丈夫……だけど、その人は」
「厄介だねー。
俺を
緊迫する状況に
「問題ありません。作戦は、どうしますか? 班長」
「先輩の意向を
「了解っ。それじゃあ、始めますかぁ!」
勢いよく走り出す
その速さは人間とは到底思えないもので、俺の目では
「それじゃー、俺は
「私も……上位のあやかしは、班長とチャラ男さんに任せます」
「オイオイ。チャラ男さんって、なんだよ……ッ! 意外と硬いなぁ」
振り下ろした
当の本人は、薄ら笑みすら浮かべている。
一旦離れる
「さすがに、上位のあやかし相手に20パーセントの威力はないかぁ……」
「
「いやいや……班長は、そんな
まぁ、
俺も、小柄な
『こっちの
「壊せない……? 殺せない、じゃなくて」
「
直後に、後方支援として振り下ろす巨人のような
「これは、裏がありそうだなー。
「問題ありません。
「分かってる……。火力は四人の中で、上だろうニ人の攻撃で無傷なのは、あり得ない……それに一切避けないなんて」
すべてを受け止めて、無傷なのは明らかにおかしすぎる。
そんなとき、俺は一瞬横に向けるあやかしの視線を見逃さなかった。
「えっ? 俺たちが通ってきた電信柱がある……しかも、あのとき見た赤だ」
「はい?
あやかしの視線を追った先に、最初に見た赤い電信柱が
まさかの
俺にだけ視えてるのか……?
「
「えっ? あっ――」
その瞬間、すべてがスローモーションに視えた俺には、
とっさに
「嘘ッ……
「あっ――駄目ぇぇえ!!」
全員の心配をよそに、スローモーションによってすべてが視えていた。
背後から伸ばされる
その瞬間、
一瞬のうちに姿が変わった俺は、指で触れた触手が凍りついていることに気が付いて目を見張る。
『――まさか、土壇場で魔法使いが覚醒するとは、なんとも運が悪い……』
「へっ……? って、うおっ!? なんだ、この服装……コスプレみたいで、とても恥ずかしい」
「
取り乱す
コスプレよりも恥ずかしい……。
そんなことよりも!
「みんな! そいつの、
「あー……なるほどねー。コイツは"容れ物"だから、攻撃が無効化されたわけね」
「先輩! 私たちには、その
まさかの攻撃してきた触手は見えたけど、本体の脈打つ宝箱は俺にしか視えていないらしい。
口を開けたままの赤い電信柱の中央に置かれた宝箱に振り返る。
「えっ……。やっちゃってって言われても……俺、無意識なんだけど!?」
「あそこに書いてあったことを思い出してください!」
「確か……魔力器官を感じながら1つの魔法を創造すること。つまり、触手が凍ったってことは……氷!」
光に照らされて輝いてみえる触手が伸びる先に、ドクンと脈打つ宝箱がある。
それ自体が生きているかのように。
すかさず動く上位のあやかしと、俺の前に立ちはだかる被害者に俺は息を呑む。
「コツはなんとなく掴んだ気がするのに……一か八かだ!!」
『させるか……! 人間の魔法使いに、
「
上位のあやかしを
強大な魔力が両手を介して放射されると、一本の氷が被害者を突き刺して脈打つ宝箱に到達する。
その瞬間、苦しみだした上位のあやかしの胸からドクドクと青い鮮血が流れ出した。
――パキパキッ……
宝箱からも青い血が滴ると、全体が凍結していく。
そして、粉々に砕けて空に舞った。
『グァァァアア!! よくも、我の心臓……魔法使い、如きが……』
「ハァハァ……
「――大丈夫です。あの状況下で、初めてなのに……被害者だけ、攻撃無効にするなんて」
上位のあやかしは名乗ることなく、砂のように崩れて消えていく。
それにともなって、
駆け寄って確認した
自分に向かって駆け寄る
「あっ……なんか、目の前が暗く――」
「
「うおっと! 大丈夫か?
誰かに抱きとめられた気がして、何か言葉を絞り出すが声にならず力が抜けていく。
変身が解けると同時に目の前が暗くなり、魔力器官が激しく軽快な音を鳴らして記憶が途切れた。
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