第21話 ガラス細工の夏祭り
待ちに待った翌日の夜。
今日は何事もなく平和な一日を過ごした俺は、
あの張り紙を見つけた電信柱から先に向かって屋台が並んでいる。
ガラス細工の夏祭りだけあって、ガラス工芸品はもちろん頭上には、大量の風鈴がさまざまな色と音で、参加者の目と耳を楽しませていた。
「えっと……
思わず叫んでしまうと当然周りから痛い視線が刺さる。
そんな俺は、紺色の浴衣に黒い帯をしていた。
とっさに両手で口を押えた直後、後ろから肩を叩かれて振り返る。
「
「うっ……聞かれてた」
まさかの
恥ずかしさから目線を下げて
温泉旅館で着ていた大人っぽい浴衣とは違い、クリーム色の生地に、
小物も浴衣と同じ生地の巾着を手に、黒に赤い紐の下駄を鳴らして落ち着かない様子にみえる。
「あっ……その、温泉旅館と違って可愛いよ」
「有難う……ございます。あっちは、少し背伸びした感じでしたからね!」
「あっちは大人っぽくて、色っぽかったかなぁ」
子供っぽいと解釈した様子の
誤解を解いてから俺たちは、屋台を見て回る。
「風鈴も綺麗ですよねー。風鈴祭りでも良さそうですけど」
「まぁ、各地に沢山あるからなー。風鈴だけじゃないぞってところを見せたかったんじゃないか?」
「
丸い形じゃない風鈴に目を細めた。
綺麗だけじゃない、夢のある風鈴やガラス細工に目を輝かせる
「これは、さすがに一点モノみたいだけど……買える風鈴もあるみたいだな?」
「ですねー。記念に買っちゃいます?」
「そうだなー……えっ? 白い狐の風鈴?」
気分が良い
――チリン……
かすかに聞こえた音と、白い狐の形をした風鈴が一つだけ視界に映る。
誘われるように一歩踏み出した瞬間、暗がりにモデルのような長い足が見えたかと思うと、次にはカエルがつぶれたような音がして、何かが引きずられていく音に聞き覚えのある声がした。
「――小賢しい真似してるんじゃねぇよ。今、デート中なんだからなぁ?」
「……本当は、一切認めてないんです。ただ、班長が――」
耳を疑って神社があった場所に駆け寄るが、奥には細道しかなくて辺りを見回す。すぐにあとを追いかけてきた
「先輩大丈夫ですか? あやかしに化かされました?」
「えっ……? 待てよ……俺が見た、風鈴は……白い狐だった」
「あー……悪戯好きの狐のあやかしですね。たまーに、お祭りとか人間が多く集まるところで悪ふざけをしているんですよ」
温厚なあやかしらしく、人間に危害は加えないことから見逃しているらしい。まさか、ハンターに席を置く俺が化かされるなんて……。
恥ずかしさに両手で顔を隠す俺に、
「恥ずかしいことじゃないですから。基本的に、あやかしを知る人間が化かされるので! 先輩は、魔法使いの卵ですから。他の人間より、魅了されただけです」
「そ、そうなのか……?
「でも、
笑顔で怖いことを口にする
屋台で美味しい物も買ってニ人で分けて食べ歩き、りんご飴をかじる
俺はチョコバナナを食べていると、
「お兄さんたち、美男美女カップルだし。中央にある鐘をイメージした風鈴を鳴らしていきなよ!」
「えっ!? 美男美女カップルだなんてぇ……おじさん、分かってるー」
「恥じらいをみせて、ノリノリかよ……俺たち、カップルじゃ――」
否定しかけたところで腕を引っ張る
本当に中央にいくと、鐘をイメージした大きな風鈴がそびえ立っている。
透明な風鈴に白っぽい天使が描かれていた。カップルで鳴らすと幸運が訪れるといわれているらしい。
「先輩、見てください! とても大きいですよ」
「本当だなぁ。でも、やっぱり風鈴は小ぶりがいいかも」
「せっかくなので、一緒に鳴らしませんか? その……カップルじゃないですけど」
グイッと腕を引っ張られて顔を寄せる俺に、最後の部分だけ小声で耳打ちしてくる
傍から見ると初々しくみえるだろう照れくさそうにする俺たちに、ヤジが飛ぶ中、ニ人で鳴らした風鈴は綺麗な音を運ぶ。
「なんか、色んな人に見られるのって……恥ずかしいな」
「は、はい……。お祭り気分に浮かれてました……。みんなのお土産を買って、帰りましょうか?」
恥ずかしさからニ人で下を向いて歩いていると、不意に顔を上げる
「あっ……バレちゃったかぁ」
「えっ? その声って……
「いやー……隠れているつもりだったんだけどねー。屋台の香ばしい匂いに誘われちゃって」
だらしのない笑みを浮かべる
「……
「ちょっとー! なんで、みんながここにいるの!? それに、
「いやー……俺は、一切何もしてないんだけどねー……」
先ほどまでの雰囲気が一気に台無しになるように、騒ぐ
ただ、横からスーッと現れた
「――今回は大目に見ますが……。班長の同意なく、何かしようものなら容赦なく殺しますから……」
「ひっ……! は、はい……」
「ちょっとー。
俺にも分かる殺意に身体を縮めるようにして、終始騒がしいまま全員で家路を目指して歩いていく。
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