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幾度かの体験授業を経て、今日は狙う科目の一つである錬金術の体験授業だ。
講師は中年と思しき女性で、外見からすると広義的に同郷かも知れない。
「錬金術は学んでおいて損はない。汎ゆる基礎になるからな。中級以上修了を受講条件にしている科目も多い」
調理学や薬学もそうだ。何はともあれ、錬金術で躓いたら私は詰みだ。
「初級は必須科目にしてもいいと思うんだがなぁ。逸れた。錬金術は魔術適性は不要だ。あったら便利だが、無くても出来る。知識と技で何とかなる。まあ最低限機材は要るがな。それが大きな特徴だ」
身に着ければ、やれることも幅広い。工業、農業、医療、凡そ全ての分野で活躍出来る。勿論、ひとりで総てをカバーするのは難しいだろう。錬金術を学ぶ者は大概道を絞る。錬金術の中でも得意な分野を専門的に極めることが多い。
「ただまあ、本ッッ当に細かい。計算もだが、計量とかな。小麦粉一粒でも結果変わったりするから、向いてない奴は本当向いてない。頑張って」
切り捨てるようにそう言った後、皆に石のような物を配り始めた。
「錬金術の体験授業と言えばケイ酸塩の抽出・加工らしいぞ。喜べ実技だ。これは比較的大雑把でも大丈夫だから、先ずは楽しめ」
そうして、学生たちはガラスペンの作成をすることになった。
部屋に戻ると珍しくフィルメクオコットさんは不在だった。授業で作ったガラスペンを見せたかったのだが機が合わなかったようだ。
共通机に向かって座り、ペンを眺める。ノートを開き、試し書きがてら授業を振り返る。
先生が「先ずは楽しめ」と言っていた通り、実技の授業は中々に楽しかった。覚えることは多いが、全ての暗記が必須ではない。先生はそう言っていた。
何をしたいかを考え、手順を調べ、計算をしてから準備を整え実技に移る。都度目先の流れのみ解っていればいい。繰り返す内によく使う反応や素材の名前なんかは自然と覚えていく。覚えたことが増えれば、したいこと・出来ることへの発想が増えていく。と。
暗記科目だと敬遠されがちな錬金術だが、彼女の授業においては暗記力を試されることはないらしい。
但し、錬金術の実践に於いては予期せぬ副産物が生成されてしまうこともあるため、学生には実践前に必ず理論式を提出するように義務付けられている。
最初から取ることは決まっていたが、だからこそ、面白そうな科目で期待が高まった。
気が付けば夕飯の時間を過ぎていた。フィルメクオコットさんは戻っていない。これは台所を使うチャンスだろうかとも思ったが、そもそも食材を用意していない。食材を買いに行ってもいいが、流石にその間に帰ってくるだろう。
そう言えば、かの特許王の姉君もまた天才で、錬金術による合成物百%のジュースを作ったと聞く。しかも専攻は錬金術ではないらしい。
姉君の噂は村では殆ど聞かなかった。塔では思ったより有名人で驚いている。
なにはともあれ、錬金術の体験授業を一度受けただけの私に食材の錬成は出来ない。諦めていつもの食堂で夕飯を手に入れてこよう。
「やあ、クノ=カノトくん。これから夕飯かい?」
食堂に辿り着く前にロアーさんに遭遇した。
「はい。ロアーさんも食堂行きますか?」
「う〜ん…そうだなぁ、たまには行ってみようかぁ」
そう言って私の横に並んだ。
「おぉい、此処此処ぉ〜」
料理を取りに行っている間に、ロアーさんが席を確保してくれていた。ピークを過ぎていることもあり、今日はテイクアウトしなくて済みそうだ。
「ありがとうございます。…って、ロアーさんそれだけですか?今から取りに行っていいですよ」
「いやぁ少食でねぇ。気にしないでいいよぉ」
ロアーさんの皿に乗るのは僅かな野菜と果物だけだった。
「ひょっとして、食事は済んでいましたか?誘ってしまってすみません」
「あぁ、そうとも言えるなぁ。まぁついてきたのはボクだから、謝る必要はないよぉ。お誘い嬉しかったしねぇ」
気を使わせてしまったようだ。
「ロアーさんは、普段何処に居ますか?」
「ん?そうだねぇ。大概は研究室にいるねぇ。どうして?」
「会いたい時、何処を探せば良いのかと」
ロアーは、キョトンと目を丸めた。
「…会いたい?君が?ボクに?」
「え?ええ、はい」
「君が…かぁ。そうかぁ」
そう呟いて何か考え込んでしまった。探されたくないのかも知れない。
「ボクの研究室は今変に盛り上がってるからなぁ。君が訪ねてくると大変かも知れない」
なるほど。何か大変な時期なのなら邪魔はしたくない。意図的に会う手段を確認しておこうと思っただけで、特別必要なことではないのだ。難しそうなら大丈夫ですよと返そうとして、
「そうだ、なら使い魔を交換しよう。連絡手段としては適当だろう?」
思わぬ連絡先を得てしまったのだった。
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