第25話 赤忍者

 正雄はあれからずっと考えて居た。


 道を示す事についてである。


 どうやるべきなのか見当も付かない。


 そんな時知り合いの義男から連絡が入った。


 新居を構えたので、一度顔を出せと言う。


 義男は早くから結婚をしていて、子供も二人居る。


 新居かぁ、アイツ頑張っているのだな。


 正雄と同じ歳なのに大分差が付いてしまった。


 いったい俺はこんな所で何をしているのやら。


 正雄は焦りに似た様な気持ちを感じた。


 来いと言うなら行かねばなるまい。


 正雄は新居祝いに何を持って行こうと考えた。


 義男の新居は、新築のマンションだった。


 コイツはきっとコレを自慢したかったのだろうと思った。


 それにしても良いマンションだ、正雄のアパートと比べると天と地程の差がある。


 それが自分と義男の差のような気がして少し悲しく思えた。


「おう、いらっしゃい。元気そうだな」


「おお、まぁボチボチや、それにしても良いマンションやなぁ、分譲か?」


「まぁな、しかし住宅ローンだから……まだまだタップリと残っている」


「そうか、これからが大変だ」


「まぁ、それでも一国一城の主だからね」


「そうやなぁ、羨ましい限りではある、あ、コレつまらない物で恐縮やけど」


 結局何が良いのか分らずに、駅前のケーキ屋で見繕って貰った。


「おう、何か気を使わせてしまったな」


「ホントつまらん物やから」


 通り一遍の挨拶を済ませた後、中へと案内された。


 しかし高校を卒業して以来だから、実に8年振りになる。


 8年でこの差は大きいなぁと正雄はまた思った。


 片や一国一城の主、正雄はまだ彼女も居ない。


「それより新聞で読んだが、江藤さん……やっぱりあんな運命だったのだな、ヤクザ同士の抗争でなぁ」


「アノ人らしい最後と言えば頷けるけどな」


「確かに……」


 義男はその後を知らない。


 一瞬語って聴かせようかとも思ったけど辞めた、今更言った所でどうしようも無い事だ。


 そう思いながらリビングを見廻した時、正雄の眼に変なものが映った。


 昭和初期位の陸軍兵士の霊だ。


 しかし軍服は血で真っ赤に染まって居り、顔中包帯でグルグル巻き、その包帯も真っ赤に血で染まって居た。


 正雄、は何とも異様な姿にドキリとした。


 その霊は正雄と目が合うと、ソファーの後ろへ身を隠した。


「どうした、正雄」


「いや、何でもない」


「もう少ししたら嫁が子供たちと帰って来るから、そうしたら飯にしよう」


「あ、ああ、そうだな」


 暫くすると、子供たちを連れて帰って来た。


 子供たちは正雄を見て、始めこそ大人しかったのだが、段々慣れて来ると正雄にべたべたと引っ付いてきた。


 子供は罪が無い、可愛いモノだ。 義男の奥さんが鍋の用意をしてくれた。


 正雄は久し振りに家庭と言うモノを堪能できた。


 鍋は美味かった。


「そろそろ正雄も身を固めろよ」


「それは相手が居てからの話しだろ」


「なんだ、誰もいないのか?」


「まぁ、居ないと言えば居ないなぁ」


「のんきな奴だなぁ、相変わらず」


 義男の妻は隣で笑って居る、正雄は良いなぁと思った。


 俺も家庭が欲しいと思った。


「あかにんじゃ~」


「あかにんじゃ、あかにんじゃ」


「あの子たち、又だわぁ」


「ん、ああ」


「もう、赤忍者がどうしたのよ」


「きっと幼稚園で習ったのさ」


「え~、赤忍者を?」


 子供の達の指差す方にまたさっきの包帯男が立っていた。


 血だらけの包帯男が、赤忍者か……子供にはそう思えるのだろう。


 やはり子供には観えるのか……


 正雄はあえて義男夫婦には告げない事に決めた。


 放置しても害は無いだろう。


 それの折角の新居なのだ。


 無理に怖がらす事も無いだろう。


 子供たちも怖がっては居ないし、黙っておこうと思った。


 知らないことが幸せと言う事もある。


 ご馳走を腹いっぱい頂いて義男宅を後にした。

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