第19話 一年が過ぎた
このアパートに越して来てから一年が過ぎた。
相変わらず霊達は正雄の前に現れる。
どんなに疲れて居ようとお構いなしだ。
そして自分の言い分だけを述べて来る。
聴いて貰う事で楽に成るのだろうか?
それとも只言いたいだけなのか、本人じゃ無いから分らないが、こんな生活に慣れてしまって居る自分が不思議で成らない。
霊達は優しく接すると付け上る。
だから正雄は冷たく、そして強気で接する事を心掛けている。
これは女性差別の様に聴こえるので余り言いたくは無いのだが、女性の霊は苦手である。
正雄がいくら正論を言っても、中々認めようとはしない。
でも、嘘だ、それはおかしい?
と言って話を聴こうとしない。
怨が深いのも女性の霊だ。
男性の霊、特に昔の侍だとかだと正論を言えば物分かりが凄く良いのだ。
規則正しい教育を、受けて居るからだろうか?
だからと言って女性が教育を受けて無いと言って居る訳ではなく、侍のそれは、日本に古くからある武士道精神と言う教育を受けて居るからに他ならない。
潔いのだ。
佐代子と名乗る霊が居る。
この部屋で自殺した霊だ。
時々現れるのだが、先ほども述べた様に、このアパートに住み始めて一年になるが、未だに正雄の話は聴かない。
自殺者の霊はその場所に呪縛されてしまうらしい。
縛り付けられて何所へも行けないのだそうだ。
自分の気持ちも自殺した当時のまま呪縛されてしまって居るのかも知れない。
一度田島に成仏させてやってくれと頼み込んだのだが、田島の返事は「自分でやって見なさい」と言うクールな言葉を貰っただけだ。
正雄の所に居るのだから、正雄に縁があるのだそうだ。
江藤さんの家から持ち帰った額縁だが、あれは効果覿面である。
前に正雄の所へ来た武士の霊が一度も現れないのだ。
観た瞬間に土下座をしてしまう程の悪寒を感じてしまうのだ、悪霊だったに違いない。
魔除けとして、今も正雄の部屋の一番目立つ所に飾っている。
正雄の隣の部屋には、同じ年頃の男の人が住んで居るのだが、正雄と眼を合そうともしない。
まぁそれはそうだろう、毎日霊達に叫んだりして居るのだ、きっと正雄の事を頭のおかしいヤツと思って居るのであろう。
夜中に独りで話して居るのだと……。
この間廊下ですれ違う時に挨拶をしたが、逃げる様にして自分の部屋へ飛び込んで行った。
今度一回シメテやろう。
1年かぁ、早いものだ。
もう一度思い返して正雄は呟いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます