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その瞬間……
「おい、渉! 俺にも見せろよ!」
「え⁉︎」
「どうした?」
「いや……あれ? あれ⁉︎」
「なぁ見せろよ!」
「い、いいけど」
あれ?どうなってんだ?これってこの間の……だよな?
「ねぇ! またやってんの? ちゃんと掃除してくんない?」
「美波!」
「びっくりした! 何? 大声出さないでよ」
俺はあまりのことに美波を凝視してしまった。
「ねぇちょっと! そんなに見ないでくんない? キモいんだけど!」
「岳! ちょっと来い!」
「え? おう」
「ねぇ掃除してよ!」
俺は岳の首に腕を回してトイレへ連れて行った。
「おい渉、どうしたんだよ」
「美波ってやっぱり可愛いな!」
「はぁ? お前いきなりどうした?」
間違いない、これタイムリープってやつだ。
「んなことより、岳」
「あんだよ?」
「お前、今日さ美波に告れよ」
「はぁ⁉︎」
「だってお前美波の事好きだろ?」
「まぁな……。じゃねーよ! 待て! 誰にも言ってねーぞ俺」
「いや全員知ってるぜ」
「ゼーイン⁉︎」
岳が笑いながら驚く。俺も岳が笑う姿を久しぶりに見て大笑いする。
「まぁとにかくよ。今日3組の石井が美波に告るらしいから。その前にお前が告れよ」
「お前いつの間に密売人から情報屋になったんだよ」
再び笑いながら岳が言った。
「俺はこの学校の裏社会を牛耳ってんだよ」
俺もいつものノリで笑った。
「美波ー! いたいた」
「あんたうるさい! いいかげん掃除ちゃんとやってよ」
「それどころじゃねーんだよ!」
俺はオーバーリアクションで言った。美波だけじゃなく教室にいる他の生徒も俺に注目を集める。隣にいる岳まで俺を凝視した。
わざとらしく、真剣な表情でタメを作る。
「……」
「ど、どうしたの?」
「実は……岳が美奈に告りたいから今日放課後空けとけだって」
教室の時空が止まるのをハッキリ感じた。美奈は少しずつ顔を赤くする。隣の岳が3秒ほど経ってから俺の頭を叩いて大声で言った。
「バカやろー! 予告ドッキリじゃねーんだよ!」
「すまん言い方ミスった」
教室のみんなが爆笑した。
しかし、美波はそのまま小走りでトイレへ行ってしまった。
俺は美波を目で追いかけて言った。
「あーあ。まぁ大丈夫だろ」
「お前完全に人ごとだな」
放課後になり、ほとんどの生徒は帰っていた。
というより、俺がみんなを帰らせたと言った方が正しい。
あの時と同じだ。夕日が教室の窓ガラスから差し込み、風がカーテンを揺らし遊んでいる。
またピアノの音が聞こえる。一体、誰が弾いているのだろう。
岳のやろう、屋上で告るって言ってたけど。なんでみんなして屋上で告りたがるかね。
俺は再び屋上の入り口から頭を出して様子を伺った。
「美波、俺と付き合ってくれ」
岳がそう言うと美波は小さな声で言った。
「いいよ」
よっしゃー! これで岳と付き合う世界線に変わった。あとは前みたいに事故らないようにしねーとな。
おっと、忘れるところだった。アイツの弱みは握っておきたい。盗撮しておこう。
そして俺はシャッターを切った。
俺はダッシュで昇降口を出て、自転車置き場に向かう。自分の自転車にはロックをかけた事を確認して、岳の自転車をパクる。鍵をかけてないアイツが悪いんだからな。
よし。これで岳と美波が二人乗りする事もないだろう。俺は岳のチャリに乗って一人で大笑いをしながら帰った。
(やっぱり俺、頭よくね?)
『アレクサンダー博士! 言ってる意味がわかりません!』
『つまりじゃ! すべての事が同時に起きておるのじゃ!』
『だから!博士! それの意味がわからないんですよ!』
『あーもう面倒くさくなってきたわい』
『ちょっと博士! 同時って、じゃあ僕たちが見てる世界は何なのですか⁉︎』
「渉ー! 風呂入っちゃいなさいよ!」
「……」
「渉! 入るわよ。ちょっとあんた! また風呂入らないで寝て!」
「……うるせぇなぁ」
「入ってから寝なさい!」
中学生の息子の部屋に平然と入ってくる母親はどうなのだろうか。
やはり入場料を徴収する仕組みをそろそろ導入しなくては。
「いい気分で寝てたのによ」
脱衣所へ入り脱ごうとした瞬間、突然母親が入ってきた。
「おい! だから! いきなり入ってくんなよ!」
「あっごめんなさい、大変なのよ!」
「何が?」
「岳ちゃんが車に跳ねられたって」
「え⁉︎」
中央病院へ母親と共に向かった。部屋番号を確認して病室までダッシュで向かう。病室前のベンチに美波が座っていた。
「おい美波! 大丈夫か?」
「渉! 岳……私をかばって……それで」
美波はそのまま両手で顔を覆って泣いてしまった。
俺は美波に声をかける事も、肩を抱く事もできなかった。
病室に入り岳の様子を確認する。岳だと確認できる情報は何もないくらい包帯でぐるぐる巻きだった。数えきれない管が岳が重体だということを物語っている。
次の日学校へ行くと、教室の雰囲気がまた違う。すでに話はある程度伝わっている様だった。
美波は休みか。まぁ当然だよな。
俺は学年集会には出なかった。出たくないからじゃない。出る意味がないからだ。集会に出て岳の怪我が治るならいくらでもも出てやる。
翌日、岳は死んだ。
美波もあれ以来一度も学校に来ていない。
岳が事故にあった日から明日でちょうど一週間になる。俺はまた一人学校に残っていた。あの日みたいに夕日が教室に差し込み、風がカーテンを揺らし遊んでいた。
あの日みたいに誰かの気配も視線も感じなかった。間違いなく今、ここには俺だけが静寂の中で存在していた。
誰かがまたピアノの練習をしている。
俺は天井を見つめていた。ふと思いついた。
待てよ。前回戻ったのも今日と同じ日だったよな? 俺は気がつくと屋上へ向かって走っていた。
西日が眩しくて腕で影を作る。
(あれ?今回は俺、泣いてないんだ)
美波が死んだ時は大泣きしたくせに、親友の死では泣かないなんてアイツのいう通り俺はクズなのかもしれない。
俺は再びファインダーから覗き込んだ。やっぱり、まただ!
そうか! 前回は気が付かなかったが重なった人影は、一人が石井でもう一人は岳だったのか。
でもまだ何人も重なってる。これじゃ見当もつかない。
その瞬間、夕日が沈んだ。美波達の影が消えた。
(今だ!)
俺はフラッシュのスイッチを入れた。パイロットランプが怪しく光り出す。
(次こそは!)
俺はシャッターを切った。
その瞬間……
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