15:続編映画館

ここにとある映画館の上映プログラムがある。


『エターナル・ラブ2』

『エコー・オブ・タイム:セカンドチャプター』

『バタフライ・エフェクト:最後の選択』

『クロニクル・オブ・フェイト4』

『エンドレス・ナイト Part3』

『パラレル・ドリーム Another Story』

『メモリーズ・オブ・トゥモロー 完結編』

『フォロワーズ:新たなる集い』

『タイムリープ・パラドックス:第二の扉』


気がつくだろうか。これらの作品には共通の特徴がある。全てが何らかの形で「続編」であることを示す言葉を含んでいるのだ。数字、"Part"、"Another"、"第二"、"完結編"――これらの表現は、これらの作品が全て何かの後に続くものであることを示唆している。


では、なぜこの映画館は続編のみを上映しているのだろうか。この一見奇妙な状況について、論理的に分析を試みよう。


まず、以下の事実を確認する。

- この映画館で上映される全ての作品は続編である

- 全ての続編には、必然的に元となる作品が存在する


これは一見、不可解な状況に思える。なぜなら、続編を上映するためには元の作品が存在している必要があり、その元の作品を上映せずに続編だけを上映することは、観客の理解を著しく損なうように思えるからだ。


しかし、この状況が論理的に不可能というわけではない。以下、可能な説明を順に検討していこう。


第一の可能性:情報の非対称性

- 観客は全て、既に元作品を知っている

- その場合、元作品の上映は冗長である

- しかし、これは新規観客の存在を考えると現実的でない


第二の可能性:メディアの分離

- 元作品は別のメディア(小説、ゲーム、漫画など)で提供されている

- その場合、映画館で上映されるのは必然的に続編のみとなる

- これは論理的に整合性があり、現実にもそのような例は存在する


第三の可能性:時間的制約

- 元作品は過去に上映されており、現在は続編のみを上映している

- これも論理的には可能だが、新規観客の問題は解決しない


第四の可能性:空間的制約

- 元作品は別の映画館で上映されている

- この映画館は続編専門という役割分担がなされている

- これは論理的に最も整合性のある説明かもしれない


第五の可能性:定義の問題

- 全ての作品が何かの続編であり、かつ何かの元作品である

- つまり、「続編」と「元作品」は相対的な概念である

- この場合、「続編のみの上映」という記述自体が意味をなさない


以上の分析から、この映画館の運営方針には少なくとも論理的な矛盾はないと結論付けられる。しかし、より興味深いのは、この分析を通じて明らかになった「続編」という概念の持つ相対性である。ある作品が「続編」であるかどうかは、我々の参照点の取り方によって変化する。


したがって、「続編のみを上映する映画館」という概念自体、我々の持つ「物語」についての直線的な理解に基づく偏見かもしれない。物語は必ずしも線形である必要はなく、全ての作品は他の作品との関係性の中でのみ意味を持つ。そう考えると、この映画館は物語の本質についての深い洞察を我々に提供しているのかもしれない。


私はプログラムを手に取り、もう一度上映作品を見渡す。『タイムリープ・パラドックス:第二の扉』という作品が目に留まる。そういえば、続編とは本質的に時間の問題なのかもしれない。我々は物語を時間の流れに沿って一方向に理解しようとするが、それは単なる習慣に過ぎない。この映画館は、その習慣に静かな疑問を投げかけているのだ。


チケットを買うことにした。どの作品から見始めても構わないはずだ。なぜなら、それこそがこの映画館の伝えようとしているメッセージなのだから。


チケット売り場で気づいた。隣の映画館のプログラムも、やはり続編ばかりだった。そういえば先週末も、街中の映画館はほとんど続編で埋まっていた。どうやら、この現象は、単に夏休み興行の常態だったらしい。


しかし私は、この長尺な考察を無駄だとは思わない。時に、取るに足らない観察が、思いがけない真実への扉を開くことがあるのだから。


『エターナル・ラブ2』のチケットを手に、私は上映開始を待った。

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