第30話 小休止

 その日の午後、あゆみは大学のカフェテラスでかずきと奈緒に会った。晴れた空の下、風が心地よく吹き抜ける中、3人は窓際の席に座った。


「あゆみ、顔が疲れてるけど大丈夫?」

 奈緒が心配そうに声をかける。


「うん、大丈夫。ちょっとね……昨日、家で色々あって。」

 あゆみは苦笑しながらカフェラテを一口飲んだ。


「色々って?」

 かずきが首を傾げながら問いかける。


 あゆみは少し黙った後、深呼吸をして話し始めた。


「昨日、すばるさんと一緒に実家に行って、結婚の話を両親にしたの。」


「ついに報告したの!?すごいじゃん!」

 奈緒は輝く笑顔を見せたが、その明るさにあゆみは一層影を落とした。


「でもね……お父さんから、かなり厳しい条件を出されちゃって……。」


「条件?」

 奈緒が驚いたように目を見開いた。


「教員採用試験に合格すること、それと同棲を続けること。お父さんいわく、現実を知らないままでは結婚なんて無理だって。」


 かずきは少し眉をひそめながら言った。


「まあ……厳しいけど、試験はあゆみの夢のために必要なことだよな。子どもたちとの同棲も、親として現実を見せるための条件なのかもな。」

 現実的なかずきの言葉には少し棘があった。


「そうみたい。でも、お父さんの言い方が本当にきつくて……。すばるさんに対しても『家庭を壊した人間だから信用できない』ってはっきり言われたんだ。」


「それはちょっと言い過ぎだよね。」

 奈緒は憤るように言った。「星宮先生、あゆみのこと全力で支えてるのに。」


「あの場で、すばるさんがちゃんとお父さんに反論してくれたのが本当に救いだった。『彼女がすべてを背負う必要はない』って言ってくれて……。」

 あゆみの言葉には、感謝の気持ちが滲んでいた。


「それで、あゆみはどうするつもりなんだ?」

 かずきが真剣な表情で尋ねる。


「あれこれ考えても仕方ないし、やるしかないよね。試験に合格するのも、同棲を続けるのも。どれも簡単じゃないけど、全部クリアしないと結婚は認めてもらえない。」


 奈緒が優しく微笑みながら言った。


「でも、全部を一人で頑張る必要はないんじゃない?星宮先生もいるし、私たちだっている。困ったときは頼ってよ。」


「ありがとう、奈緒。」

 あゆみは微笑み、少し肩の力を抜いた。


 かずきが腕を組みながら言った。

「もし何か手伝えることがあれば、俺も言ってくれ。如月が諦めるのは見たくないし、応援してるからな。」


「あんたたちがいてくれて本当に良かった。ありがとう。」

 あゆみは深く息を吐き出し、カフェテラスに広がる青空を見上げた。


 試験への不安、家庭のプレッシャー、未来への希望――それらが交錯する中、あゆみは少しずつ、自分の中に確かな光が芽生え始めるのを感じた。

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