第3話 守り神

 リトと出会った街を出立してはや5日。私たちはひたすらにジメジメした森を進んでいた。

「本当にこの道であってる?一向に森から抜けられないんだけど…。」

「だいぶ歩いたな。街の人達が地図で説明してくれたから、この道で間違いないはずだが…。食料も底をつきそうだし、早く補充しないと。」

「つっっかれたぁ。ねぇリト、少し休まない?もう足パンパンなんだよー。」

「それじゃあ少し休むか。僕は近くに魔物や盗賊が居ないか見張りつつ何か食べられるものがないか探してくるから、シャナは先に休んでて。」

「あれだけ歩いてまだそんな体力があるのね、すごいな・・・。じゃあお言葉に甘えてちょっと休んどくね。何かあったら『シャナー!助けてー!』って叫ぶのよ?」

「いやそんな情けない声は出さないけど・・・。シャナも危険を感じたら合図してくれ。すぐに駆けつける。じゃあそろそろ行ってくる。」

「はーい!気をつけてね!」

去っていくリトの背中を身送り、ぼんやりと空を眺めながら考えていた。

 この5日間、リトは一度も眠っていない。夜の間もずっと、魔物や盗賊が来ないか見張ってくれている。そのおかげか、これまで一度も魔物に襲われていない。

「こんなに平和な旅は初めてね。私だって多少魔法は使えるけど、大型の魔物なんて出てこられたら一溜りもないもの。」

「ほお、じゃあワシはラッキーのようじゃ。苦戦せずに食事にありつけられる。」

「え?!誰!誰なの?!」

「ふふふ。上じゃよ、上。」

見上げるとそこには、立派な角を生やし、深い緑色の鱗で覆われた体と筋肉質な手足、そして左右非対称な羽を持ったドラゴンがいた。が、大きさは通常のドラゴンより小さい。ギリキリ私を背中に乗せることが出来るくらいだろうか。

「今更ワシに気づいたところでもう遅い。お前のいる森は全てワシの支配下。お前の仲間ももう助けには来ないぞ。今頃森で彷徨っているであろう。さあ、じっくり食事を楽しもうではないか!」

そう言い終わると、ドラゴンは鋭い爪と牙を向け、私に襲い掛かってきた___。



_________


「…まずいな。もうずっと同じところを彷徨っている。はやくシャナのもとに戻らなければいけないのに…。」

シャナと別れてから、僕は森を彷徨っていた。まるで森全体が、僕のことを閉じ込めようとしているように思えてきた。

「シャナ!どこだ!僕はここにいる!返事をしてくれ!どこだ、シャナ!__。」

その時、とある方向から爆発音のようなものが鳴り響いた。音がした方角には、黒煙が空に高く立ち上っていた。

「__!シャナ!!」

僕は無意識のうちにシャナの名前を呼び、音がした方角へ走っていた。



_________


ドラゴンが私に襲い掛かろうとしたその時、

「「「姉ちゃん!ライカ姉ちゃん!」」」

そのドラゴンを“ライカ姉ちゃん”と呼んだのは、数匹のドラゴンの子供達だった。子供たちの声を聴いた瞬間、ライカは攻撃をやめた。

「お前たち!なんで出てきた!隠れていろと言っただろう!」

「姉ちゃん!街が!グランティアが大変なことになってるんだ!」

「街の人たち、みんな怖がってるの!怪我をしている人もいて…。」

「なんんじゃと…?!もしや、魔物の襲撃か!」

「それがただの魔物じゃないんだ!体に赤色のトゲトゲが生えている二足歩行のオオカミみたいなやつで、魔法を使って街をおそってる!結界も意味を成してないよ!」

「二足歩行のオオカミ…もしかして…!」

「お前、もしやその魔物を知っておるのか?!」

「うん。私が探している町にいる魔物なの!お願い、私をグランティアに連れて行って!必ず力になるわ。」

「…うむ。ぜひ力を貸してほしい。お前、名は何という。」

「シャナよ。」

「シャナ。ワシの名はライカ・ランドルティア。グランティアの守り神である。」

次の瞬間、私の左手の甲が赤く輝き、ドラゴンの形をした紋章が現れた。

「背中に乗れ、シャナ!グランティアに急ぐぞ!」

先ほどまで私に牙を向けていたドラゴンは、今度は何かを切望するような、気弱な瞳を私に向けていた。

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異端児旅行記 日眩 迷子(ひくらみ まいご) @hikurami

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