第23話 樋口失踪

今回思いついた「崇神天皇が天然痘とワクチンの仕組みに気づき、聖武天皇がそれを再利用して以後も秘匿技術として磨き続けた」という仮説はなかなか面白い。この補助線を引けば、もっと面白い事が見つかるかも知れない。まずはまた戦国時代の光秀・秀吉スパイ論について考え直すことにしよう。


夢中でとりよせた文献を読み漁り、思いついたことを調べ、メモをとっていく。調べたいことができて、必死に打ち込んでいるときは他のことを忘れられる。気がつくと飯を食うのも忘れていて夜だった。


こうなりそうな予感がしたので、冷蔵庫には3日分の食材が用意してある。日持ちのしない鶏肉から食べていくと順番も決まっているから、考える必要もない。タレに軽く漬け込んだ鶏照りやきとスクランブルエッグを丼によそったご飯にのせ、和洋折衷親子丼を作ってさっさと食事を済ませる。ええと、読みかけの本はどれだったかな…


結局部屋から出ることもほとんどないまま、2日ほど読み込みに没頭する。そろそろ次のライブの告知を打たないとなとおもったら、樋口から次の仕事を催促するメールと、またひかり教団からのセミナー依頼メールがきていた。



『凍道チャンネル運営者様:◆月セミナーご登壇のご依頼』

凍道チャンネル運営者様


はじめまして、お世話になっております。

◯◯社の▲▲と申します。


凍道様の動画を拝見し、大変素晴らしいと思いました。

凍道様の考察、是非拝聴させていただきたいと

改めて思った次第です。


前回はご都合があわなかったとのことですが、

◆月に凍道様のご都合のよい日時でイベントを開催し

ぜひ凍道様にご登壇いただきたいと思います。

講演料として100万円と交通費をお支払い致します。


何卒よろしくお願いいたします。


うーん……100万円のギャラという条件はこの業界では破格と言ってもいいんだろうが、やっぱり気乗りしない。だいたい、100万円も出して俺に日時まで合わせてセミナーをやってほしいというわりに、俺の動画をきちんと観ているような感じがしない。なんなんだろう?


気味が悪いので断りの返事を送っておいた。


凍道です。

リアルでのイベントは一切お断りさせていただいてます。

ギャラや、日程の問題ではありません。

ご了承ください。


樋口からは、新調したレンズの威力を見せたいから次の仕事はまだかというメールだった。そうはいっても、今はまだ新しい依頼が来てない。無理な話だよ樋口くん、とメールを書いていたら、新着メールが来た。


要約すると、浮気相手も絞り込んでるので、尾行して写真を撮ってきてほしい、言い値を払うからという、またこの手の依頼だ。認知プロファイリングが使えない仕事はつまらないのでやる気はないが、仕事を投げないと樋口は「催促をしてくるな」と言うまで毎日メールを送ってくる。あいつならやりたがるだろうか?


依頼主には「私はこの依頼は多忙につきしばらく予定が埋まっていてお受けできませんが、知人の腕の良い探偵を代わりに紹介します」と返し、しばらくというといつまで忙しいんだと食い下がるから、当分は一杯(嘘だ。受けるつもりはない)だと言うと、代わりの探偵で良いとのことだったので、樋口に転送しておいた。


俺は仕事をしてないから、紹介料も要らない、ただ一応紹介した俺の顔を潰すなよ、と釘を刺しておく。樋口からは「まかせてください!このホテルなら向かいのグランドホテルのこのあたりの客室からニューレンズで性交中の動画を抑えてみせますよ!」と意気込みを語る返事がきていた。違う、そういうことじゃない。まあ、これでしばらくはあいつも大人しいだろう。


そのことは忘れてまた資料の読み込みに打ち込むこと数日、満足いくライブの台本が仕上がったので、メールをチェックしたら、樋口からこんなメールがきていた



『特殊警戒態勢』


今回のOperation、ターゲットがホテルに入るところを超遠距離から新調した超望遠レンズで狙っていた所、ターゲットはしきりに尾行を気にする気配。そのままレンズ越しに観察していると、あやしい男達とホテルに入るでもなくなにか話し合い、アルファードに同乗して去った。異常事態と判断。


これは探偵を捕まえストーカー扱いする探偵美人局事件の可能性が非常に高いと考えられる。日時・場所まで指定されたので超遠距離からの狙撃撮影に切り替えて正解。


怪しい男達とホテルの前で会話している現場の写真を送った所、依頼主からは約束通りの報酬が振り込まれたが、さらにまた尾行を依頼されたため、丁重にお断りした。


違和感大。この任務からは撤収する。



そんなこともあるのか、変なのを紹介して済まなかったなと返信しておいた。


樋口からの返信はなかった。

これが、樋口から受け取った最後のメールになった。

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