第3―3夜 邂逅
俺達は恐竜の世界に飛び込んだ。まだ恐竜とは出会っていないが、時間の問題だろう。
はじまりの地は肉食恐竜の巣という不運極まりない場所だったが、なんとか抜け出した。その後はあかりの能力を使って水と食料の確保も出来た。
後はいつかやってくるであろう巣の主に備えるだけだ……
俺達はそこら辺に生えている葉と、木を使って簡単なテントを作った。白亜紀は温暖な気候なのだが、とは言っても野ざらしは心許ないし、危険だ。
木を切るのはあかりがやってくれた。俺がやったら自分の方に倒れてきて頭がU字溝になってしまうだろうな……
その間に俺は草や葉を集めてきた。そういえば、この時代は被子植物が増えた時代とか聞いたような……だからか、なんとなく見覚えがあるような植物があった。
組み立ては俺がやることになった。が、あかりが絶え間なく文句を言ってきやがった。
「こういう感じの三角テントみたいに組めばいいのか? 」
「違う。入口がしっかりついてて、柱が高いやつ」
「じゃあ、こんな感じか? 」
「狭い、もっと奥行きが欲しい 」
「ぐぬぬ……」
1時間後――
「出来らぁ! 」
「やっぱり、テント2つにしよう 」
「ハァァァ!? 」
と言う感じで一向に進まない。最終的にはモンゴルで見られる移動式の家である「ゲル」を小さくしたようなテントを一つ建てた。
結構大きくなってしまったから恐竜に見つからないといいが……
夕食は肉であった。漫画でよく見るような、腹筋ローラーみたいな形の肉だった。
味はめちゃくちゃ美味かったのだが、サイズが大きくて食べにくかった。肉と俺の顔の大きさが同じ位なんて頭がおかしいんじゃないかな?
ちなみにあかりはこの巨大骨付き肉を四口程で平らげていた……恐竜はこいつかもしれない。
度重なる疲労のせいか、夕食の量が多すぎたのか、俺が寝るのに一分もかからなかった。このままやり過ごせるといいのだが……
翌朝、過去最悪の目覚めを体験してしまった。
目覚まし時計のベルは不愉快極まりない。そのせいか、二度寝は珍しいことではない。しかし、こいつはすぐに起きれる代わりにシチュエーションが最悪だ。
ぬくぬく寝ていた時、俺の鼓膜を切り裂くような、甲高い声が耳に響いたのだ。俺はあまりの衝撃に飛び起きる。
足元は暗く、上からはねっとりとした、得体のしれな液体が落ちてくる。間違いない、遂に奴に会ってしまった。
俺はあかりを探す。あいつならなんとかなるはずだ。しかし、あいつの姿は見えない。それどころか、テントは完全に壊れていた。
まさか……食べられたのか……俺は覚悟してこの怪物と相対する。
この怪物は10メートルを超えているだろう巨体に、他を噛み殺すに適した頭と鋭い歯を持つ。恐らく、あの巣の主だ。
そうこうしている間に、気付いたら奴の口が目の前にあった。
俺はここで死んでしまうのか……そう覚悟した刹那、この怪物の背中からスルッとあかりが滑り落ちて来た。
「おはよう」
「おはようじゃねえよ、なんなんだよこれ! 」
「寝起きドッキリ。〜最強の肉食恐竜ティラノサウルスを添えて〜 」
「てめぇは恐竜使いになったのか……」
「That's right《ザッツライト》! 」
「まさか、朝になるまでずっと出てこなかったのは、お前が操っていたからか?」
「そう」
俺は深い深い溜息をついた。全部こいつに付き合わされているだけじゃないか、こんなの……
「それで、これからどうするつもりだよ。別に俺達は恐竜と戦うわけでもないし」
「とりあえず、この恐竜に乗っていろんなところに行く」
「はぁ!?どういうことだよ! 」
「早く乗って」
「おい!ちょ、待てよ!! 」
あの野郎、人の話を聞かずに出発しようと視野がる。最近悪戯の度合いが過ぎるだろ……
俺はティラノの尻尾に掴まるしか無さそうだ。
「ぬおおお!!落ちてたまるかあ!! 」
「ファイト!ファイト! 」
「お前はなんとかして止めてくれよ! 」
「嫌だ。自力で来ないとだめ」
クソッ……尻尾の乗り心地?掴み心地?ははっきり言って最悪だ。ゆっくり歩いているとは言え、めちゃくちゃ揺れる。おかげで昨日食べた奴が土に還ってしまいそうだ。
一方、あかりは快適そうに周囲の風景を眺めているようだ。俺が一体何をしたってんだよ……
何分揺られただろうか……気分が悪すぎてそんなのも考えていられない。まだ尻尾から落ちなかっただけマシだろう。
すると、ティラノが急に止まった。やっと安息の時が来た……俺は体力を振り絞ってすかさず背中の方へ向かう。
「この恨み、どうやって晴らそうかな? 」
「そしたら、また悪戯で返すのみ」
「むぅ……」
「それよりも、前を見て」
一体何があるのだ……何一つ期待せずに前方の景色を見てみる。
すると、そこには開けた大地、悠々と生い茂る植物達、縦横無尽に流れる水、そして生き生きと躍動する多種多様な恐竜達の姿があった。
その風景を目の当たりにした俺は、心の奥底に眠る童心が息を吹き返そうとしていた。
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