第2―4夜 行方不明者二人〜回想〜
あかりとようやく合流出来る。俺は心の底から安堵した。彼女ならこの非常事態をなんとかしてくれそうだからだ。
「おーい、こっちだー!俺はここにいるぞー! 」
俺はほぼ底をつきた体力を振り絞って声を上げた。しかし、彼女からの返答はない。
雨音で聞こえないのか?安堵から一転、焦りがぶり返してきやがった。
でも諦めちゃだめだ。俺はこいつとこの夢の旅を終わらせなければいけないのだ。
「あかりーー!俺はここにいるぞーー!返事をしてくれえーーー! 」
だが、彼女からは何一つ言葉が返ってくる事はなかった。
変な脂汗が滲み出る。心臓の鼓動が激しくなる。指の、唇の、脚の震えが止まらない……俺は何かしてしまったのか?……彼女は今何を思っているんだ……俺は……彼女は……俺は……
焦りに飲まれ、自問を繰り返していると現世での過去が脳に浮かび上がってきた。走馬灯だろうか?途轍もなく、嫌な記憶だ。
世界は自分のためにある。自分は世界に望まれ、産まれるべくして産まれたのだ。中学生までの俺はこんな事を思っていた。
そんなことだから、俺はクラスメートは自分の手下のような存在だと考えていたし、親が俺のために尽くす事だって当たり前だと考えていた。それどころか、身の回りに存在する万物は全て自分のためにあると考えていた。
つまるところ、“俺のものは俺のもの、お前のものも俺のもの”というガキ大将ムーブをやっていたのだ。実際クラスメートや友達は俺についてきていたし、周りからもチヤホヤされた。
俺はこのまま中学生活を謳歌し、志望校に合格した。俺は高校でもガキ大将のような振る舞いをした。またすぐにみんな俺の下につく……そう思っていた。
「俺は世界に選ばれし人間だ!みんなよろしく! 」
自己紹介はこんなことを言った。クラスは一瞬にして氷のように冷たく、硬くなってしまった。もっと他にリアクションがあるだろ!と、違和感を覚えつつそのまま次の自己紹介へ移ったが、その後はお葬式のような雰囲気だった。
それ以降、俺はクラスの王の如き振る舞いをし続けた。最初の方はよかった。勉強も部活もイベントも全てうまく行った。
しかし、ある一つの悲劇から全てが狂ってしまったのだ。
俺は一人の同級生に恋をしていた。そいつは学年一の美少女であり、俺もまた好きだったのだ。
俺はある夕陽の輝かしい放課後、そいつを呼び出して告白した。結果は振られた。
俺は激昂し、そいつに思いつく限りの罵詈雑言を浴びせた。
「お前はこの世で一番偉い人間に逆らった愚か者だ!死んで詫びろ! 」
「お前は世界一醜い女だ、俺に顔を見せるな!」
「お前はこの世に必要ない!消えされ! 」
そいつが泣くのを放り出して帰り、周りのあらゆるものに八つ当たりした。
翌日、俺を見る目は一際冷ややかになった。相手が相手なだけあって、すぐに知れ渡ったのだろう。まぁいい、上に立つものは嫌われる事だってあるのだ……少し経てば前と同じだ……と、俺は考えた。
が、日に日に自分が孤立していることは、誰の目から見ても明らかだった。
さらに、追い討ちとなったのは文化祭だ。こんな事態でもクラスは俺の手の中であった。俺の案が可決され、俺の思い通りに計画が進んだ。
ここで成功を収めれば皆見直す……こんな思惑を心に秘めながら文化祭当日を心待ちにしていた。
文化祭当日、俺の体はマグマのような高熱を出してしまった。これでは文化祭にいくことは叶わない。だが俺の作品は成功し、俺は素晴らしい人間だと誰もが尊敬するだろうと信じていた。
しかし、事は思惑と真反対に進んでしまった。文化祭では、学年毎に出し物のランキングを作るために投票が行われる。
我がクラスの出し物を支持する人は僅かで、学年どころか全出し物中最下位となってしまった。
体調を整え再び登校したが、心配する人や俺に話しかける者が居ないどころか、嫌味すら聞こえた。俺は完全に孤立してしまったのだ。
それからは最悪だ。部活は失敗続きで排斥され、学年一の頭脳を得るべく臨んだテストは、解答用紙が赤いバツの絨毯になるだけだった。
常に後ろ指をさされ、馬鹿にされ、不良に暴力を食らう毎日。もう、俺は身も心もボロボロだった。
夏休みは、ほぼ全ての時間を自室で過ごした。これらの情報が家族や周りの人々に知れ渡っていたからだ。もう、俺には居場所など存在しなかったのだ。
孤独の深淵に飲み込まれた俺は生きる気力も、自信も、何もかもを失ってしまった。自殺だって考えたが、俺にそんな覚悟はない。
夢の旅はそんな俺に居場所と希望を与えてくれたのだ。
だが、今それすらも危うい。あかりが、俺をまだ信じてくれる人が、俺を無視している。俺は、また居場所を失ってしまうのだろうか……俺は、一体何をすればいいのだろうか……
雨が俺を叱責するかのように強く降り注ぐ。このままでは俺も、あいつも濁流に飲まれてしまう。あいつはなんとかなるかもしれないが、俺はこの木が流されればゲームオーバーだ。
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