記憶の裂け目で迷う少年譚。余韻濃密な幽駅ミステリ、深く沁みる
- ★★★ Excellent!!!
『消えた駅の秘密』は、都市伝説の『うつろい』を手触りのある感覚で描く、静かな恐怖と郷愁の物語です。最初のハイライトは、古びたレンガ塀に触れた瞬間に冷風が走り、凍りついたような静寂とともに錆びた駅名標の「桜影駅」が出現する場面。音が消える描写まで含めて『ここは現実の端だ』と読者の体感に訴え、以後の不可思議を説得力で包みます。そして終盤、歪む時間の渦に呑まれた主人公が自室で目覚め、時刻は進まず机には古びた片道切符――裏には「次の列車は君を迎えに来る」。この一文の冷たさののち、彼が世界から忘れられていく余白が、恐怖を跳ねさせると同時に『忘却に置き去られるもの』への哀しみを滲ませます。あさき いろはさんは、説明ではなく感覚の連鎖で読者を運ぶリズムが巧み。ページを閉じても、背後でレールの継ぎ目が遠く鳴り続けるような余韻が残ります。続編やスピンオフで『忘れられた場所』の系譜にさらに踏み込む姿も、ぜひ見てみたい――そう思わせる一篇でした。