第6話 藤村達也の人生
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自分で言うのもあれだが、俺はどこにでもいる普通の少年だった。確かに人付き合いは苦手だったり、性格はお世辞にも明るくはなかった。よく言えば大人しい、悪く言えば根暗な少年だった。でもそれだけの、普通の子供だった。
そんな俺に転機が訪れたのは小四の頃。親の仕事の都合で転校して、新しい学校の教室に入った時、そいつはそこにいた。
それは、可憐な少女だった。単純な容姿で言えば、今まで見てきた同学年とは比べ物にならないくらいに愛らしかった。それだけでなく、明るく活発そうな笑顔も素敵だった。俺が普通の子供だったなら、一目見ただけで恋に落ちていただろう。そう思わせるだけの、魅力的な少女だった。
だが、俺が感じたのは、そんな年相応の情動ではなかった。それは、怒り。今日出会ったばかりの、まだ言葉を交わしてすらいない女子相手に何故そんな気持ちを抱いたのか。それも分からないまま、俺は指定された席に着く。それは偶然にも、件の少女の隣だった。
「初めまして、藤村君。私は桃園友梨佳。よろしくね」
席に着いた俺に、少女はそうやって自己紹介してきた。いつもの俺ならば適当に「よろしく」と返して会話を打ち切るか、完全に沈黙してコミュニケーションを拒否するかの二択だっただろう。
「……うるさい、話しかけるな。さっさと死ね」
けれども、実際に俺の口から出た言葉は、あまりにも強烈な罵倒。こんな言葉、思ったことはあっても、口にしたことなど一度もなかった。だというのに、この少女相手には何故かすんなり発してしまった。
「……え?」
当然ながら、少女は呆気に取られていた。転校生に挨拶したら罵声を浴びせられるなど、想定しているわけがないだろうから当然だ。
「この転校生、桃園さんになんてことを……」
「いくらなんでもふざけすぎだろ……!」
「酷い……」
案の定、他のクラスメイトから非難の声が上がる。……おかしい。一体俺はどうしたというのだ。普段なら絶対にあり得ない言動を、この少女にしてしまっている。俺は目立つのが苦手だし、人付き合いが出来ないなりに波風立てないように生活していたはずだったのに。
「……藤村君」
しかし、俺の混乱は長くは続かなかった。少女の反応が、あまりにも予想外すぎたからだ。
「私と、お友達になって」
「「……は?」」
少女の申し出に、クラス中の声が重なった。かくいう俺も、声にこそ出さなかったが同じ気持ちだった。……この少女は、よりにもよって、初対面で酷い言葉を放った俺に、友達になって欲しいと告げたのだ。
「達也って呼んでいい? っていうか呼ぶね。達也は前どこに住んでたの? 好きな食べ物は? 色々教えて!」
俺の困惑を他所に、少女は積極的に話しかけてくる。理解が出来ない。意味不明だ。そして、その訳の分からなさが、俺の怒りを助長する。
「話すかボケが、呼吸すんな生きてられるだけで迷惑だ」
これが、あいつとの―――桃園友梨佳との出会いだった。この日以来、友梨佳は俺に纏わりつくようになった。そんな彼女を疎ましく思いつつも、俺は結局完全に突き放しきれなくて。やがて、七年の歳月が経過した。
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