第24話 公爵家令嬢対策お茶会
セシリアはそのあと、ルシアとヴィクトルに連絡をとってお茶会の日取りを決めた。
セシリアは日取りとお茶の銘柄とお菓子を決めただけで、支度は召使いがやってくれた。今日の目的は
お茶会の準備を整えて待っていると、まずルシアがやってきた。5、6歳くらいの小さな男の子を連れている。ルシアと同じ栗色の髪とアレクによく似た明るい灰青の瞳をしている。
セシリアとルシアが挨拶を交わす前に、男の子がセシリアに歩み寄った。
「はじめまして、
そう言うと持っていた小さな花束をセシリアに差し出した。
「ありがとう」
セシリアは屈んでエフラムから花束を受け取った。エフラムはセシリアと目が合うとはにかんで、ルシアの後ろに隠れた。
「どうしてもセシリアに会いたいというから連れてきてしまったわ。よろしかったかしら」
「もちろん、大歓迎です。今日は楽しみましょうね」
セシリアがエフラムをのぞきこみながら言うと、エフラムは顔を半分隠しながらうなずいた。
セシリアは召使いに花束を生けて持ってきてくれと頼んだ。そうこうしているうちに、ヴィクトルもやってきた。
「ヴィクトル!」
ヴィクトルを見るやエフラムは嬉しそうに名を呼んだ。そのまま椅子から降りてヴィクトルに飛びつきそうな勢いだったが、ルシアと目が合うとぐっと我慢してとどまった。
「お招きありがとうございます。王太子妃殿下」ヴィクトルは随分お行儀よく挨拶すると席についた。
各々のカップにお茶が注がれ、しばらくお茶とお菓子を楽しんだ後、セシリアが気になっていたことを聞いた。
「エフラム王子とヴィクトルは仲がよろしいんですか」
「はい、ヴィクトルには剣を教えてもらっているんです」エフラムが元気よく答える。
「エフラム王子は筋が良い。いい剣士になりますよ」
「ありがとうございます」エフラムが嬉しそうに答える。
お茶を飲みながらルシアからお茶会についての心得を聞いたが、当然ながら秘訣のようなものはなかった。
「結局はもてなそうとする気持ちが大切、ってことになってしまうのだけれどね」
「そうですよね」
「ヒルデガルトについても特に悪い噂は聞かないわ。とにかく綺麗な子だから王太子妃になれなくともどうにでもなりそうだけれど」
「とにかく会ってみます。会って話をしてみないことには何もわかりませんし」
「そうね。そうだ、ヒルデガルトとのお茶会にエドワードを呼ばない?」
「エドワードって楽士のエドワードですか」
「そう、ピアノがあると話が続かなくても間が持つわよ。エドワードはいろんな会でピアノを弾いて、貴族の秘密を山ほど知っているけれど、決して誰にも話さない。信用できる人よ」
「そうですね……お願いしようかしら」
自分をよく思っていないであろう人間と初めて会うのにピアノが流れているのはいい考えに思えた。気まずい思いをすることもあるだろうし、それを紛らすものがあるほうがいいだろう。
それにエドワードは、これといって会話を交わしたことはないが、ダンスのレッスンを通して信頼できる人間なのはなんとなくわかった。
「じゃあエドワードに話しておくわね。エドワードは人気があるから日取りが決まったら早めに言ってね」
「はい」セシリアは半分ため息のような返事をしてお茶を飲んだ。
「私はセシリアとアレクサンドルの味方だから、困ったことがあったらなんでも言って」
「ありがとうございます」
「父親がああだからか、アレクサンドルは昔から自分のことをあまり言わない子でね。お妃選びで自分の希望を通したときは驚いたわ」
「そうだったんですか」
「浮かない顔ね。アレクサンドルのことがまだよくわからない?」
「そうですね。どうして私が王太子妃に選ばれたかもよくわかりませんし」
ルシアは微かに目を見開いたあと、花が開くように笑った。
「人を好きになるのに理由はいらないわ。セシリアにもそのうちわかるときがくるわ」
「そう、でしょうか」
「ええ、それにしても喋りすぎたかしら。アレクサンドルに知られたら怒られてしまうわ」そう言ってルシアは笑った。
それから、退屈しつつあるエフラムに向き直った。
「エフラムは
ルシアに言われてエフラムは迷った様子をみせた。ちらりとセシリアのほうをうかがう。
「どうぞ気にせず行ってきて」セシリアが言う。
「でも……もっと義姉上とお話ししたいです」
「まだ時間があるから戻ってきてからでも大丈夫よ」セシリアがうながす。
「では行ってきます」
エフラムはルシアと部屋を出て行き、後にはセシリアとヴィクトルが残された。
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