白夜の抱擁 第五章 二人の秘めた縁

「二人で消えちゃおうか?」


 二次会の席で、みおさんに耳元でそう囁かれ……三次会への移動中、みんなを巻いた。


 動き出す始発……二人が向かったのは……


 横須賀。


 目的地は決まったが、目的は……特に無いまま。


 横須賀に何があるのか……行けばどうなるのか……。

 何もわからないまま、それでも電車に乗っていたのは……

 二人、一緒に居たかったから?




 新宿からまずは渋谷へ。

 そして渋谷から横浜までの東横線。


 二人の距離……この時点では、まだ然程接近してはいなかったのだろうか……。


 実家の最寄り駅の都立大学を通過し……自由が丘、日吉と……通り過ぎてゆく駅と共に……想い起こされる恋の記憶たち。

“新宿”……“渋谷”も含めて、それらの駅名を耳にすればそれは……思い浮かんでしまう、切ない想い出たち。

 自責……贖罪……そんな思いばかりが浮かんでしまう。


 しかし……みおさんを想う気持ちがきっと、既に芽生えて……否、育ってしまっていたであろうその朝……

 それらの想い出はすべて、もう既に『過去』のもの……そんな感覚を、優先しようとしていたんだ。

 過去の哀しい記憶を甦らせて、自分を責めるのはもうやめようと。


 それでも自分で決められない『何か』。

 みおさん……そんな甘えた僕の罪を……

 それらの過去に何の関係もない貴女であったとしても……許して下さるのでしょうか?




 いつの間にか降り出してきた雨。

 横浜から乗り換え、久里浜行きの京急。

 座席から眺める……流れてゆく窓の外の風景……。

 ガラス窓をつたい、その景色を遮る雨がどこか物悲しくて……二人とも、ほとんど喋らなかった。


 若いと言っても徹夜明け。

 疲れと……電車の揺れが誘う眠気は……

 自然と二人を寄り添わせた。


 終着駅など無いまま……横須賀にも何処へも辿り着かずに……

 本当はそのまま、寄り添っていたかったんだ。




 それでも到着してしまう、横須賀の駅。

 雨の勢いが本格的になり、駅構内のショップで傘を買う。


「一本で一緒に入ればいいんじゃない? もったいないわよ」

「じゃあ、少し大きい……こっちにしようね」


 駅前の広場を出てから……なぜ海側の方向が判ったのか。

 それともいい加減に歩いた方向が……たまたま港へ向かう道だったのか。


 なぜ……三笠ゲートをくぐり……

 アメリカ海軍の横須賀基地方向へと角を曲がったのか。

 まるで、これから辿り着く場所を知っていて……向かっているかのように。




 やがて、海に面した公園へと辿り着く。


 中央に佇むのは、東郷元帥の銅像。


 降り続く雨の中、その後ろで沈黙を続けているのは……


 そう……記念艦として保存されている……








 戦艦三笠だった。

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