第9話 地図が示す核心

16時30分、ワンビル 地図が指す場所への道


「この地図の赤い点……ここが“クロノコード”の核心がある場所なんでしょうね。」


沙羅はモニターに映し出された地図をじっと見つめていた。地図上の赤い点は、ビルの中央部にある謎の空間を示している。しかし、その場所には通常のフロア案内や設計図には存在しない「隠し階層」が示されていた。


「本当に、こんな場所がこのビルの中にあるんでしょうか?」


沙羅が不安げに呟くと、藤川は画面に映る地図を指差して力強く言った。


「あるに決まってるわ。私たちがここまで追いかけてきたんだもの。隠し階層だろうと何だろうと、このビルには秘密があるってことよ。」


「でも、どうやってそこに行くんですか? エレベーターにも階数のボタンがありませんし……」


沙羅はモニターを操作しながら考え込む。だが、藤川は少し笑みを浮かべながら指を鳴らした。


「簡単よ。地図を見て、この階段を使えばいい。」


藤川が指差した地図上には、地下2階から繋がる非常階段が描かれていた。その階段は、通常のフロアではなく、この「隠し階層」に直通しているようだった。


「非常階段……なるほど、でもそんな場所、普通は気づかないですよね。」


「だからこそ隠されてるのよ。この階段を使えば、私たちだけであの場所に行ける。」


沙羅は藤川の言葉に頷きながら、地図のルートを確認した。そして、二人は早速その非常階段を目指して歩き出した。


16時45分、非常階段


非常階段は、地下2階のさらに奥に隠されるように設置されていた。鉄製の重厚な扉を開けると、薄暗い螺旋状の階段が上へと伸びている。


「ここ……本当に登るんですか?」


沙羅は階段を見上げながら少し躊躇している。手すりは古びていて、まるで長い間誰も使っていないようだった。


「もちろんよ。ここが地図に書かれてるんだから、間違いないわ。」


藤川は沙羅の肩を叩いて笑った。


「ほら、沙羅ちゃん。こんなチャンス、記者冥利に尽きるじゃない!」


「……分かりました。」


沙羅は小さく深呼吸をして、意を決して階段を一歩踏み出した。


16時55分、隠し階層


階段を登りきった先には、またしても重厚な扉が立ちはだかっていた。その扉には「認証カードを挿入してください」という文字が書かれている。


「またカード……どうするんですか?」


沙羅が困った顔で尋ねると、藤川は周囲を見回しながら扉を調べ始めた。


「こういう時は焦らない。きっと何かヒントがあるはずよ。」


その時、沙羅が扉の隅に小さな穴を見つけた。


「藤川さん、これ……!」


「なるほど。カードの代わりに、ここに何かを入れる仕組みね。でも、何を?」


二人が悩んでいると、藤川のスマホが突然鳴り始めた。画面には「非通知」の文字が表示されている。


「また非通知……?」


沙羅が思わず藤川のスマホを覗き込む。藤川は少し躊躇したが、通話ボタンを押した。


「もしもし?」


スマホからは、またしても無機質な声が流れてきた。


「これ以上進むには、“真実を見る覚悟”が必要だ。」


「真実を見る覚悟……?」


藤川が問い返すと、スマホからの声は続けた。


「答えはE-732だけではない。次の鍵は、クロノコードが記録された“記憶”に隠されている。」


その言葉を最後に、通話は一方的に切れた。


「“記憶”……?」


沙羅はその言葉を反芻しながら、扉に手をかけた。すると、先ほどまでは反応しなかった扉の上部に、薄暗いディスプレイが現れた。そこには、またしても「クロノコードを解読せよ」という文字が表示されていた。


17時10分、扉の前での解読


「これ、また何かの暗号ですか?」


沙羅がディスプレイを見つめながら言うと、藤川は腕を組んで考え込んだ。


「そうみたいね。しかも、今度は“記憶”って言ってた。何か過去のデータに関係してるのかも。」


二人が悩んでいると、ディスプレイに数字と画像が次々と表示され始めた。それは、天神の街の昔の写真や建物の地図だった。


「これ……天神の再開発前のデータですね。」


沙羅が写真を指差して言う。ディスプレイに映る街並みは、彼女が幼い頃に見た懐かしい風景そのものだった。


「そうか! 記憶って、この街の“過去”のことなんだ!」


沙羅の言葉に藤川も気づいたように頷いた。


「つまり、この写真や地図の中に、次の暗号のヒントが隠されてるってことね。」


二人はディスプレイに映る情報を一つ一つ確認し始めた。そして、ある一枚の地図に目を留めた。そこには、「クロノコード」という文字とともに、小さな数字の列が書かれていた。


「1357-2468」


「これが……次の暗号?」


沙羅はその数字をディスプレイに入力すると、扉が重々しく開き始めた。


17時20分、核心の部屋


扉の先に広がっていたのは、広大なドーム状の部屋だった。中央には巨大な透明な球体が設置されており、その中には無数の光る線が縦横無尽に走っている。


「これが……クロノコードの中心?」


沙羅はその光景に圧倒され、言葉を失った。


「ただのコンピュータじゃない……これ、何かの象徴みたい。」


藤川もその球体を見つめながら呟いた。球体の中心には、文字が浮かび上がっていた。


「クロノコードを解読せよ――そして選べ。」


「選べ……?」


沙羅と藤川は顔を見合わせた。その言葉が意味するものを理解するには、まだ時間が必要だった。

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