第39話 信用にたる男

 服を着た。


 そして、ふたりの自衛官とむきあった。


 おれの背後には、おれの相棒である黒竜もいる。


「フルヤさん、んでおれ、あの三匹の竜って、心あたりがあるんですが」

赤城あかぎ達比古たつひこ、適合者の第一号だな」


 あっ、やっぱりフルヤさんも、そう思っちゃったか。


「私の留守中に、防護服を見にきたと」

「そうです。おれその場にいたんで」


 どうでもいいけど、あの男は「スーツ」と言っていた。フルヤさんは「防護服」と呼ぶ。自衛隊って日本語にこだわるんだな。


「竜との感応度をあげるとかですよね?」

「いや、感応度は関係がない。服というよりよろいだ。竜の防御力をあげるのがおもなねらいとなる」


 あれ、ちょっと待って。


「スーツって、竜のほうですか!」

「そうだが?」


 あいつは、どっちのことを言ってたんだろう。まあそれはともかく。


「それは、陸上自衛隊の独自で開発してるんですか」

「そのとおりだ。この世界に変わって、どこも手探てさぐりの状態だ。海自は海自、空自は空自で、それぞれ開発しているものもある」


 それはつまり、企業は企業で開発してるってことでもあるよな。


「ドラゴンが黒い影だったのは」

「おそらく、トヨビシが独自で開発した魔導具だろう。すごいものを開発している、そんなうわさはあった。みなの予想では、冷蔵庫だろうと」


 そのうわさ、すんごい思いあたるフシがある。


「国家権力で、どうにかなんないんですか。シロウトのおれでも、犯人とそのバックの組織が思いあたるぐらいですよ」


 おれは常識を言っただけだが、フルヤさんは苦笑した。


「どさくさにまぎれた二大財閥の合併。そんな感じなんですよ、ヤマトさん」


 口をひらいたのは部下の斉藤さんだ。


「それって、政府もなかなか口をだせない、みたいな?」

「そういう感じです」


 なるほど。世界が変わってまだ数年。新聞かなにかで書いていたとおり「混迷の時代」なのかな。


「それでヤマトくん」

「はい、フルヤさん」

「肝心な答えをまだ聞いていない」

「答え?」

「きみと黒竜は、協力してくれるのか、いなか」


 ああ。フリチンになって気合いを入れたりしてたので、すっかり忘れていた。


 おれは背後の黒竜へとふり返り、黒竜を見あげた。黒竜も青い瞳で見つめ返してくる。


『戦イカ』

「そう、おまえの力、貸してくれるか」

『言ッタハズダ。ヤマトハ守ル』


 そうだな。ずっと言ってくれていた。


「おれも、おまえを守る」


 かっこつけたのに、黒竜からの反応は予想外のことだった。


『無理ハスルナ。ヤマトハ弱イ。魔法ノ素質モナイ』


 ああ、はいはい。耳が痛いですよ。


 おれは黒竜から、ふたりの自衛官へ再度むきなおした。


「協力します」

「してくれるか!」

「でも、バレないようにしたいです」


 おれの言葉にフルヤさんが笑った。


「東富士演習場にいる自衛官を、私の隊の者だけにしよう。おそらくきみは、私を信用してくれているはずだ。おなじように私の隊の者も、信用してはくれないか」


 そう言われて、部下の斉藤さんを見た。


「はっ。小官、ヤマト殿どのと黒竜殿どののことを一生いっしょう他言たごんせぬと、ここに誓うものであります!」


 ビシッ! と気をつけの姿勢で言う斉藤さんだ。口のまわりはまっ白だけど。


「もちろん、信用してますって」


 おれは斉藤さんにむけて答えた。


 しかしあれだ。思えばその逆も不思議だ。おれはフルヤさんへたずねることにした。


「フルヤさんこそ、おれを信用していいんっすか?」

「そこは初めから思っていた。黒崎くろさき大和やまとという男は、きっと信用にたる男だろうと」

「どういう意味です?」

「きみが退学になった理由だ」

「魔導スプリンクラーで学校を水びたしにした件っすか?」

「そうだ。あの行為は正しい。いざというときの動き。そこに人間の本質がでる」


 妙なところを買われたもんだ。


「あの日、きみがどの竜とも適合しなければ、きみをわが隊へ勧誘かんゆうするつもりでいた」


 うわっ。思わずその話を聞いて、おれはふり返った。黒竜と眼があう。


 人生の分岐点って、あるものなんだな。


「残る問題は、敵がいつくるのか」


 フルヤさんの言葉に、おれは視線をふたりの自衛官へともどした。


 それについては、おれに案がある。


「善は急げです。今日の夜、あの三匹を東富士演習場に呼ぶ。どうでしょうか」

「こちらの準備は可能だが、ヤマトくん、敵をどう呼ぶのか」

「おれにまかせてください」


 自衛官ふたりは見あったが、おれはけっこう自信があった。

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