第12話 契約

 たき火のはぜる音がした。


 山のなか。夜ふけ。


 おれは巨大な竜と見つめあっている。


「あらためて言う。おれはヤマトだ。フルネームだと黒崎くろさき大和やまと

われ黒竜こくりゅう


 たがいの名を言いあった。


 くそっ。思えばおれの名字は黒崎だ。なんだか、この竜とちょっと運命めいたものを感じる。


『デハ力ヲ貸ソウ』


 黒竜が黒い翼を広げた。


「ヲ前ガ滅ボシタイ物ヲ言エ」

「ちょいちょいちょい!」


 なんでこの竜は、こんな物騒なんだ!


「おれ別に、滅ぼしたい物なんて、ないから!」


 黒竜の赤い眼が、おれを見た。んで、なんでこいつは、こんなに感情のない顔なんだ。


「それより、はっきり聞きたいことがある!」

『ナンダ?』

「名前を言いあった。あれは呪いではないんだな?」

『名前ハ名前。呪イトハナンダ?』


 前任者が死んだのは、呪いとかじゃないのか。


「んじゃ、これで、パートナーの契約ってことでいいんだな」

『契約。契約ナラワカル』

「なんだって?」

『ヲ前ノ血ヲ我ノ頭二濡レ』


 なんだそれ、契約書のかわりか。


 ちょうどおれは目尻が切れている。親指でぬぐってみると、やっぱり血だ。


 やりかたが理解しにくいけど、黒竜は頭をさげ、首をひねって頭を見せてきた。おでこに塗れってことなのかな。


 おでこがでっかい。おれが両手を広げたサイズよりも大きいおでこ。おでこの中央に血を付けてみた。


『我ノ番ダ』


 黒竜はそう言うと、ひねった首をもどした。おれの目のまえに巨大な口を持ってくる。


 そして口をとじてなにかをしている。音が聞こえた。重低音。いやこれ、ひょっとして歯ぎしりか。竜の歯ぎしり。すごい音だ。ゴゴゴゴ、ゴゴゴゴっと。


 地鳴じなりのような重低音がやんだ。


『ペッ』


 なるほど。


 おれは両目を指でぬぐった。顔面にツバをはきかけられた。血のまじった竜のツバだ。


 パイ投げ競走を喰らったみたいに、おれの顔面は竜のツバでドロドロだ。


「あのな、おまえ……」


 顔面についた竜のツバを両手で落とす。ぬぐった手はジーンズでふいた。


「サイズ的にこうなるかもしれないけど、ほかにやりようが……」


 そこまで言って、おれは異変を感じた。めっちゃ気分が悪い。竜のツバが臭いからじゃない。なんか、からだの内側が変だ。


「の、のろいか!」

『ノロイ、ワカラヌ』

「だから、おれに何かしただろ!」


 口を押さえた。なんだか吐きそうだ。


『血ノ契約。魔法ダ』


 ……えっ。


『ドチラカガ死ネバ、ドチラモ死ヌ』


 そういうのファンタジー小説で読んだ気がする!


 つまり、どちらかが死んだとき、相棒であるほうも死んじゃうわけだ。だからおたがい攻撃しない。まさに相棒。


 いや、ちょっと待て。ちょっと待て。


「まさか、前任者が自殺した理由って、これか!」

『ワカラヌ。説明シタアト死ンダ』

「血の契約をしたあとか!」

『イヤ、ドチラモ死ヌ契約デキル、ソウ説明シタアトダ』


 うわー、それ早とちりだ。


 おそらく、こいつは「血の契約」というものが存在するという説明だけした。契約したあとにどちらかが死ねば、双方死ぬと。


 んで前任者は、名前を言いあったところでそれが契約だと勘ちがいした。だからそこで自殺した。こいつを倒すために!


 しかしそもそも、自衛隊からも国の役人からも、竜が魔法をつかえるなんてレクチャーを受けていない。どういうことだ。


「あのさ、おまえ、地球で生まれたんだよな」

『ワカラヌ。気ヅケバ、コノ世界ニイタ。ドコダココハ』


 わかった!


 こいつ、異世界の竜だ。


 地球はまるごと異世界に転移した。あのとき、いろんな宇宙、いろんな世界が混じりあったのか。


 やべぇ。


 ものの数分、こいつと話しただけで、いろいろとわかってきた。


『デハ、ユコウ』

「行くってどこだよ」

『ダレヲ殺ス』


 おれは夜空にむかってため息をはいた。


 いろいろわかったけど、こいつの性格だけはわからねえよ。

 

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