第4話 零戦

 やばい。


 やばいことになった。


空気K読めないYヤマトくん」というあだ名だったけど、そんなおれでもわかる。


 やばい空気感だ。


 だだっぴろい運動場に、おれひとりだけが立たされた。おれをむかえに、だれかがくるらしい。


 かつての教習所では、くねくねした道路とか、車庫入れのポールだとか、そういうものがあった場所だ。


 現在の移動手段は、馬車か汽車、このふたつ。あと個人で乗るならホウキかフライングカーペット。


 おそらくおれが運動場に立たされているというこは、むかえの人はフライングカーペットでくるんだろう。


 見わたしてみれば運動場のまわり、フェンスのむこうは野次馬のむれだ。メルの姿を探したけど、人が多すぎて見つけられない。何百人という野次馬がいる。


 むかえがくるというだけで、なにもこんな広い運動場にひとりで立たなくていいじゃないか。目立ってしょうがない。


 ため息をついたそのときだった。ブーン! と聞いたこともない音が空のかなたから聞こえてきた。


「ぜ、零戦ぜろせんだ!」


 野次馬のなかから声が聞こえた。


 なにをバカな。第二次世界大戦かっちゅうの。


 おれはふり返った。


「マ、マジか!」


 思わずおれも声がでた。空のかなた。プロペラのまわる飛行機が近づいてくる!


 プロペラの轟音ごうおんをとどろかせ、零戦は運動場へすべるように着陸した。


 そのままコマのついた車輪で運動場を移動してくる。


 おれの近くまできて、零戦はまわるプロペラを止めた。


 ゴーグルをつけた迷彩服の男がコックピットからおりてくる。


 じ、自衛隊だ。電気のない世界で、空を飛べるのはホウキとフライングカーペット。それ以外に、もうひとつあった。プロペラ機。


 貴重な資源である石油をバカみたいにつかうプロペラ機。いまの日本で所有しているのは自衛隊ぐらいだ。


黒崎くろさき大和やまとだな!」

「そ、そうです。あの弁護士に連絡を!」


 いまおれの家は裁判中だ。親父が弁護士の連絡先を知っているはず。


「なにを言ってるんだ。ほらいくぞ!」


 ちがうのか。逮捕じゃないのか。てっきりそう思った。


「おれは古屋直道ふるやなおみち一等いっとう陸佐りくさだ。フルヤでいいぞ。ヤマトくん」

「フ、フルヤさん。よろしくお願いします」


 なにをお願いするのかもわからないまま答えた。


「ヤマトくん、高校を中退したらしいな」

「なんでそれを!」

「すぐに調べた」


 さ、さすが自衛隊。


「貴重な、操“竜”者そうりゅうしゃだからな。悪いがいろいろ調べさせてもらった」


 そうか、竜に乗ることになれば、おれはドラゴンライダー。日本語で言えば操“竜”者そうりゅうしゃとなるのか。


「陸上自衛隊はいいぞ。高卒だろうが中卒だろうが、一人前いちにんまえの給料がでる」

「なんで自衛隊の話を。あっ、そうか、竜だ!」


 竜に乗れる適性がある人は貴重。自衛隊としては欲しい人材ということだ。


 フルヤさんが手袋をつけた手を差しだしてきた。


「自衛隊なら、危険手当を始め、各種の特別手当を入れると、平均月収よりすこし上になるぞ」


 給料は平均月収より上。おれはフルヤさんの言葉を聞き、がっちりと差しだされた手をにぎった。


「先輩、くわしくお話しを聞かせてください」

「そうだな。きみはまず、第一のハードルをクリアした」


 どういうことだろう。さきほど美人事務員さんも竜の適正者を「初めて見た」と言っていた。


「あの、大型特殊竜でしたっけ。その適正がある人って、めずらしいんですよね」


 おれが聞くと、フルヤさんは真面目な顔でうなずいた。


「毎月、だいたい十人から二十人ほどだ」


 あれっ、意外に多い。いやでもそうか、教習所は日本全国にある。そこからって考えれば、そうなるのか。


「んじゃ、これから面接とかですか。筆記試験はおれ自信ないっす!」

「そうではない。きみと適合する竜がいるかどうか。いや、言いかたがちがうな。竜のほうが圧倒的にすくない。いまいる竜に、きみが適合するかどうかだ」


 なるほど、二回目の適性検査みたいなものか!


「あの、竜って何匹いるんです?」

「この日本で、現在までに捕獲されたのは十九体」


 じゅ、十九。めっちゃすくない。


「そのうちの十五体には、すでに適合者があらわれた」

「マジっすか!」


 残り「四」じゃん!


「ここで話していても始まらない。いこう」


 言われるがままにゴーグルをわたされ、プロペラ機の後部座席へと乗せられた。


 生まれて初めて乗ったプロペラ機。乗った感想は「二度と乗りたくない」だ。怖いし寒いし、とにかく最低の空の旅だった。

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