王都編 1話(本編9話)

手には金貨の入った袋。

背中にはリュック。

腰には剣。

THE異世界冒険みたいな格好だ。

体は小さくても流石自分。

流石は元勇者。

剣が似合う。


ガタガタ馬車に乗られながら鞘から抜いた剣を眺めていた。


「お嬢ちゃん、どこから来たんだい?」


気さくに馬車を引いてるおじさんが話しかけてくれた。

鞘に剣を収めながら答える。


「それが覚えてないんですよね、あはは」


苦笑いしながら答える。

事実だ。

気がついたら歩いていた、としか言い様がない。

不思議と王都に行くというのは覚えていた。


「王都は楽しいぞぉ

アリーナに王都祭、確かこないだは王が城下を散策してたか

魚も肉も野菜でさえも新鮮!

南の方の地元じゃ想像もつかねぇレベルの美味しさでな!!」


「へぇ」


「お嬢ちゃんは目的でもあるのかい?」


「「時計塔の魔女」に会いにいくんです」


外ののどかな風景を見ながら呟いた。


「魔女?

あんなの伝説でしかいないのに会いに行くのかい?

お嬢ちゃん面白い冗談言うねぇ」


がっはっはとおじさんは笑い飛ばしていた。


「魔女はそんなに珍しいんですか?」


「今から大昔に勇者様が全員倒したからいないよ

当たり前だろぉ?」


リュックの奥に入っていた手紙を眺める。

その手紙の表に書かれた

「時計塔の魔女様へ☆」と書かれた文字。

誰がいつ書いたかは分からない。

いつの間にかリュックに入っていた。

中身は今も見れない。

なんか固い接着剤か何かで固定されてるようなレベルの固さだ。


文字の読み書きについてはなぜか分かる。

もしかしてなにかしらで学んだがスキルの影響か…と深読みしてもとりあえず分かるからいいや。

憶測に過ぎないけど手紙を辿れば前の記憶とか思い出すかもしれないくらいで向かっている。


おじさんがこっちを向いて言った。

「お嬢ちゃん!王都が見えたぞ!」

白い城壁。

2本の塔。

そしてその中心にそびえるもはや大聖堂のような装飾が施された純白の城。

これが王都 グランギニア


ガタガタと砂利の道を馬車が向かってくる。

街に近付くほど交通量は多いようですれ違う馬車の量も多くなりはじめた。

さっきの森や川が見える澄んだ自然な空気とは正反対の土埃を含んだ空気、騒がしさだ。


騒がしいのにもうんざりしつつ王都を去って行く馬車の荷物を暇つぶしに流し見するぐらいしかする事がない。

それくらい渋滞している。

果物、木材、水、食料。

ふと不思議な馬車の荷物を見つけた。

一見するとなにももない大きい麻袋を沢山積んだ馬車。

だけど麻袋の端から血が滲んでいた。

明らかに異常


「あれは…?」


「あぁ、あれか、珍しいもんじゃないぜ。

少なからずともにお亡くなりする人とかっているだろ?

そういう人の遺体を街の外の火葬場まで運んでんのさ」


「へぇ、そうなんですか」


当たり前のような事らしくなにも無く遠ざかって行く。

後ろを過ぎていく馬車を荷台から見ているとガタンと乗り上げた衝撃が来た。

宙に浮く感覚と腰への衝撃。

腰が痛い。

(精神的に)三十路でキツいって

そんな感じで腰を押さえていると少し遅れて


「王都に入ったぞ」


とおじさんが言う。

外は活気が絶えない。

賑わう屋台。

漂ってくる匂い。

どれもワクワクするのには充分な要素だ。

「そんじゃここら辺だな、銀貨2枚だよ」


「金貨1枚で足りる?」


「おぉう充分さ!お釣りは…っとこんぐらいだな、毎度あり!!」


いい香りや興味が湧くような店がある中で馬車を降りて探すものは決まっていた。


「あった」


ギルドだ。

前の世界でもギルドでクエストの手続き、報酬、狩猟制限、罰金、税収、その他やらで面倒くさいことになった。

要約すると早めに終わらせとくのがまさに仕事が出来る勇者ってやつだ。


「ちびっ子!親の付き添いで来て迷子か?

ギルドに入るのは学校卒業してからでちゅよ?」


坊主頭の体のごつい…

三流やられ役ぽい見た目。

周りからも


「うわ…またあいつかよ」


「かわいそ、初心者狩りに会うとか」


などの憐れみを含んだ視線が絶妙にウザい。

久々にあれやるかと無詠唱で

攻撃力強化×25回、素手での攻撃力上昇×13

を拳、細かく言えば人差し指に付与した。


「話聞いてんのかぁ?」


「ちょっとすいませんね~」


舐めた感じでかがんでるやつのおでこに指を添える。

対して初心者狩り(笑)は余裕満々で


「なんだぁ?デコピンでもしようってか?」


と煽ってきた。


お望み通り気持ち軽めにデコピンした。

もちろん威力はデコピンなんて可愛いものじゃない。

にしても弱すぎる。

前の世界だと戦士は直立不動で笑ってたくらいの弱さだ(魔法使いには効いた)。

対面の壁には穴が空いていた。

前の転生で煽られてやってみたら上手くいったぐらいの技術。

デコピンに見せかけたパンチ、と勝手に呼んでる。


瞬く間に人集りが出来ていた。

中心人物は私。

どうやらさっきの衝撃音で集まってきたらしい。

視線が自然と自分に集まり始めたときだった。

体が引っ張られていた。

向かう先は分からずに裏道や店の隙間、屋上を飛んで行く。


「お嬢ちゃん、見かけによらずやるじゃん」


息絶え絶えになりながら私を掴んでた人物は手を離した。


「誰だか知りませんが助かりました、マジで」


「おう、敬え、尊敬しろ、じゃあな」


そういってどこぞやの誰かは屋上から飛び降りて去ってしまった。

名前…聞けてない。


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なんか色々あったけど魔女、やってます! 某凡人 @0729kinoko

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