第3話 ウェイド・コールマン
その後、少年はルードルの治安維持兵に連行されていった。まだ当時は青少年向けの法律と成人向けの法律が曖昧だったため、彼の顛末は分からない。もしかしたら禁固で済んでるかもしれないし、首をくくられて野垂れ死んでるかもしれない。いずれにせよ、もう彼は少年の顔をすることはできないだろう。
蒸気ムカデの補給が終わり、ルードルを出発しようとしていたとき、どうしようもない悪寒がした。自分はこれから逃れない戦地に行くのだという絶望ではなく少なくとも自分の何かが違えてしまうのではないかという不安が脳裏に写った。現にこの街は変わった。正午を知らせる鐘は鳴らなくなり、人は外も同然の環境で朝を待ち、幼気な少年が復讐のため銃を隠し持っていた。もしかしたら元々そうだったのかもしれない。が、自分の目に見えなかった人の悲劇的な醜悪さがあらわになってしまうのならば、この街よりも近い台風の目のような戦線に行った時、自分はもっと変わってしまうのではないかと、恐怖と不安がせり上がってきた。もしそうなったら僕は自身を殺してしまおうと心に決めた。
蒸気ムカデに揺られている最中、向かいに座っている同じ兵士からから声をかけられた。
「俺、ウェイド・コールマン。あんた、名前は?」
なんとも急なコンタクトに心のなかで狼狽えるが僕は何気もないことを装って答える。
「ノーマン・シーラー」
「出身は?」
「北のノタカって田舎だ。」
そう言うとウェイドという男は眉を上に上げ目を大きく開いた。
「俺もノタカ出身なんだ。奇遇だな。」
ノタカはコミュニティそのものは小さいながらも土地が広いので学区などは3分割程されているので同世代で知らない人間がいてもおかしくはなかった。僕はつい好奇心から
「お互い知らないとなると学区は2区か3区?」
と聞いた。するとウェイドは
「3区だ。」
と答えた。しばらくしてウェイドは何かむず痒そうな顔をしてものを言った。
「ノーマン、シーラー…ノーマン・シーラーってどこかで聞いたことある気がするんだ…そうだ!」
そう言ってウェイドは閃いたことの証明にキザに指を鳴らした。
「シーラーって身投げのシーラーか?ノタカじゃシーラーなんて名字聞きはしないが違ってたら悪いな。」
「いや、そうだよ。昔はそう呼ばれてた。」
「そうなのか!なぁ、やっぱり例の話って本当なのかよ。」
「まぁ、噂を聞く限りだとおおむね合ってるね。」
僕がそう言うと隣で寝ていたアルが喋った。
「なんか面白そうな話ししてるじゃないか。噂って何だよ。」
「なに、ただの変な正義感持ってたガキの頃の話だよ。」
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