第15話 手術後4日目(大出血)

 同室の倒れたWさんと隣のベッドの人が退院。Wさんは私のベッドまで挨拶に訪れ、お礼を何度も口にしながら去っていった。

 お大事に~……。


 テレビカードをくれた先住隣人さんの退院時は、人は人という気持ちで気楽に見送れたけど、私も退院が迫ってきてるからかちょっと焦る。退院したら何かあった際、泣いても笑っても頼れるのは自分だけ、と思うからか他人の退院で喜ぶ気持ちより緊張感が勝ってる。


 2つ空いたベッドの1つにはすぐに新しい人が入って、数日前に経験したあれこれをなぞっていく会話をしてる。それを聞いてると、今日内視鏡検査と明日痔の手術のセット入院で、不安症のGさんと同パターン。


 下剤で腸を空っぽにして内視鏡検査、その後翌日手術までの間も絶食してたけど、この人は手術予定が夕方になってて、断食道場かっ! と可哀相になった。手術後も暫らく食事ないからね。

 食事の時間は、彼女だけずっと絶食中なのに、Gさんと私が消化を良くしようと必死なあまり、たくさん噛んで食べてる咀嚼音が聞こえてるんじゃないかと、ちょっと気まずかった思い出。気にするとすごく響いて感じるのだ。でも噛むけど。

 

音を抑えるよう気を使いながら、でも便意を警戒してなるべく急いで食事しているからか、変な所に入って噎せる。

 この頃はウォシュレットも全く刺激なく使えるし、痛みを感じる瞬間はほとんどなくなったのに、咳は患部にダイレクトに響いたのでビビりました。

 こういうちょっとした瞬間に、まだまだ治ってないんだなと実感。



 この日、夕方のトイレで出血に陥った。

 いつものポタ、ポタ…と比べて、少し息むとぼたぼたぼたぼたぼたぼた……っ、と落ちる血が途切れない。息むのをやめると、血も止まったので暫し考える。

 通常と言われている範囲を超えている気がする。でも、出血はまだあるのが普通って聞いてる。見なかったことにして流しちゃおうかな? と多少揺らぐ。

 あと二日で退院予定だが、今日の診察時に「少し出血が多いので、心配なら一日、二日くらい退院を伸ばしてもいいかもしれない」と言われたのを「えー! ……できれば、出来れば予定通りに退院したいですぅー……無理なら諦めますけど……」とごねただけに、なかったことにしたい気持ちと、ヤバいと焦る気持ちの板挟み状態。


 勿論、最後は良識が勝って呼び出しボタンを押し「出血が多かったので見てもらえますか?」と告白しました。

 やってきた看護師さんの廊下の足音が普通のテンポなので、見せる前なのになんかホッとする。焦った小走りとかだと心臓がヤバかったかもしれない。

 

 看護師さんはちらっと確認して「うん、確かに多いですね、じゃあ患部確認するので部屋に戻っててください。すぐに行きますからね」と頼もしい。

 結果、見てもらった時には出血は止まっており、ずっと出血しっ放しではないので問題ないとのこと。暫らくベッドでおとなしくしておくよう言われて、退院予定を延ばした方がいいか訊いてみる。

 この看護師さんはたまたまだが、オペ室と夜勤だけ担当の看護師さんで、すごく詳しく話してくれる。それによると――。


「数日入院を延ばしても治るわけじゃないので、延長して退院した後で、出血して病院に戻ってくる人もいますから、人それぞれですよ。1ヶ月半かけて治していく、その中の1、2日に過ぎないと考えると、45日分の1日とか2日ですからね。退院を延ばしても劇的に回復するわけじゃないのであまり意味はないですよ。ただ、ご本人にとっての安心度が違うかなと。今回のように不安だとすぐ確認できるので」

 

 なるほど。やっぱり出来るなら退院希望、だな。



 夜21時頃に、再び様子見にやってきた同じ看護師さんに色々質問、詳しく説明を受ける。

 

 通常、退院3日後→1週間後→10日後(仮免)→2週間後~1ヶ月後(卒業)と、だいたい一ヶ月半くらい通院予定。

 その後も便秘で酸化マグネシウム(緩下剤)必要なら、もう肛門科ではないので通院先は胃腸科で診察無しで相談、薬だけ出してもらう形態に。

 傷はタンパク質の液出しながら治っていくので、Zパッドにつく出血が赤からピンクに、そこから黄色い液になっていく。

 手術で皮を寄せて縫っているので、治った時にたわむことはある。外観が気になる人は、日帰りでたるんだ部分を切除することはできる。そういう人は珍しくないが、他人に見せるような場所でもないので、気にならないならそのままでも。


 退院後も入院中と基本的には同じで、起床後にお風呂で分泌液や血液を流してリセット、かぶれを防ぎ、トイレの後は洗って軟膏。

 1ヶ月半程で通常の生活に戻っても、便秘にならないよう水分(水やほうじ茶が良い)を1日2リットルくらい摂ったり、酸化マグネシウムで調整するとか、基本的な腸の安定運行を心掛ける。

 ウーロン茶はいいが、緑茶やコーヒーなどでは水分補給にならない。炭酸はお腹が張るのでまだやめておく。緑茶コーヒー等も飲んでいいが、それで便の出が悪くなったりお腹が張るようなら止める、という風に自分でペースを掴んでいく。


 傷が治って退院ではないので、退院後に大量出血等の変化や悪化があれば、24時間いつでも対応の直通電話に。

 大量の基準はどのくらいか聞くと「何もしてなくても出血が止まらない時。息んだら血の塊が出るとき」だそう。一応、出血時の対応も「Zパッドを俵に丸めて傷口に押し当て、30分ほど経っても止まらないとか、俵にしたパッドが受けきれない量の時はすぐに病院へ」と教えてもらう。


 手術室担当だからなのか、他の看護師さんよりも質問に対する返答が詳細で的確なので、色々と質問しまくってしまった。

 不安症Gさんもずっと便が出ないのを悩んでいたので、この機会にと私のところから立ち去る看護師さんを捉まえて質問攻めにしていた。


 看護師さんは皆、優しくて親切丁寧だったけど、手術日の言い方きつめでタメ口の人やこの手術室担当の人は、何を聞いても答えが「心配しなくて大丈夫ですよ」ではなく「〇〇は××になるから大丈夫ですよ」と数字や具体例で言ってくれるので、プロフェッショナルという感じですごく頼りになった。

 

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