第3話 内視鏡検査

痔と診断はされたものの、出血の原因がそれだけとは限らない。先生曰く、内部の血管が膨れて瘤のようになっている、いわゆるイボ痔というやつで、イボ痔は誰でも出来る場所は決まっているのだそう。

 三つの血管の位置に出来るからこことこことここ。図に書いて説明してくれる。


 私のもかなり大きくなってるのがその三ヶ所、小さいのもいくつかあるらしい。イボの付け根部分に裂けた痕跡もあって、それが便器を染める大量出血の犯人ぽいとアタリはつくものの、可能性を潰すため内視鏡検査を勧められ。


 勿論、それが目的で来たのだから二つ返事でOKしたら、即座に諸々予約するための受付カウンターに案内され、事務員さんとカレンダーを確認しながら、検査日の空きを探してもらう。


 都合的に別日が良かったけど、ここで間を開けると勇気がしぼむかもしれないので、一番近々の空きに予約を入れ、前日や当日の細かい説明や注意を受け、諸々記した冊子や前日飲む下剤も貰い、別階に移動して予備検査の血圧測定と血液採取を受けて終了。


 一仕事も二仕事も終えた気分で、さながら抜け殻のようになりました。



 後日の内視鏡検査。

 前日は消化の良い食事にということで細かい食材説明があったものの、三食全部ゼリー飲料にしたった面倒くさがりの私。

 当日は看護師さんに提出した誓約書や確認文書を前に、口頭で再度の確認。その後は大量の下剤と水やお湯を時間を計りつつ交互に流し込み、度々トイレに通うだけの時間です。


 確認事項は――。


 自転車、車での来院はしてないですね?

 ポリープあったらその場でとるか後日にするか。

 とるなら入院一泊か状態によって延長はOKか。

 入院の場合、四人部屋は入院費のみ。二人部屋の廊下側(8,800円)、窓側(13,200円)、個室(22,000円)、特別室(55,000円)と差額ベッド代かかります。第一希望から第三希望までよろしくね。

 一泊入院でも二日分頂きますがOKか。


 等々、等々。


 麻酔で意識なくなるから決めるところは、提出した用紙を見て一つ一つ確認しながら口頭で、もう一度全部聞かれます。


 一応、ポリープあったらとってほしいけど、無料の大部屋希望です。

 先延ばしは結局また予約して、下剤で腸を空っぽにしてと、面倒なので出来れば一気に終わらせたい。

 大部屋が空いてるか否かはその時にならないとわからないそうです。そりゃそうだ、胃だけ腸だけ、胃腸両方、男性女性、内視鏡検査を同じ日に受ける人がけっこういる。

 あ、差額ベッドは一泊二日ならまだいいとして、たとえば、延長になった場合、途中で大部屋が空いたら移動は出来ますかねぇ? あ、無理なんですか、そうですか。


 差額ベッド代は嫌だけど、後回しにしたら組織検査も遅くなり、結果を受けて行動するのも遅くなる。それで手遅れにでもなったら勇気を振り絞った意味がない。

 ということで、清水の舞台から飛び降りるつもりで第2希望まで書き込みます。

 第3希望は額と気持ちの折り合いがつかなくて、空欄にしました。

 治療ならまだしも、検査レベルで予算倍は使いたくないんだよ……。

 あと、癌とかだった場合、手術入院は別病院に紹介となるらしい、って話も聞き及んでたので、だったらポリープみつかった段階で悪性っぽかったら別病院に行くも良し。


 経験者が口を揃えて飲みにくいと語る下剤は、私の場合、冷やしたやつだと全然気にならず、下剤とお湯の紙コップ二つを並べて、10分くらいの間にちびちび飲み干し、シートに飲み始め時間と何杯目か、トイレの回数とブツの形状を書き込む。

 トイレの3回目からは流さずに、確認のため呼び出しボタンで看護師を呼んでくださいと言われ、抵抗感マックスながら、前日ゼリーしか食べてないからか固形のブツがないのでなんとか意を決してボタンをプッシュ、個室の扉を薄く開けて人の気配を探り、現れた看護師さんをササっと呼び込む。

 

 看護師さんはちらっと一瞥。

「まだですねー。濁りがなくなるまで下剤を続けて下さい。じゃ、流して大丈夫ですよー」


 それが度々続くと、恥じらいの気持ちもどこかに飛んでいき、一緒に覗き込みながら「これはまだですよねー?」「そうですねー。もうちょっとかなー」「ですよねー」とやり取りするまでに。

 やっとのことでGOサインが出た後は、後ろ10センチくらいだけ開口する検査着に着替えて移動。カーテンで仕切られた待機場所で並んだストレッチャーに横たわり、点滴したようなしてないような……この辺記憶は曖昧です。

 なにしろ出せ出せとばかりに延々下剤を飲み続けていたせいで、もういらんとなってもふいに便意が戻ってくるから、早歩きでの通りすがりの看護師さんに「下剤が残ってるのかトイレ行きたくなった気がします。どうしたら!?」と訴えたり、「もう腸の中綺麗なので大丈夫ですよー。ベッドも濡らしても平気ですからねー」とあしらわれたり、気が気じゃなかったので。


 幸い、すぐに検査室に運ばれ、麻酔を入れられ5秒で意識喪失。

 気が付いたときはもう検査後でした。


 


 

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