痔になりました。
アノクヒノキナ
第1話 目を逸らしてた現実
えー、どういう書き出しにするか悩みましたが、文体を揃えるとか、小粋な感じに…とか、欲を言うとなかなか始められなかったので、ぬるっと始めさせて頂きます。
物心ついた頃から便秘がちで、トイレとは籠もるものという意識がありまして。
だからトイレでは快適に過ごすため、香りにこだわり、本を取り揃え、時間を気にすることなく活字を追い、思い出したように息んで排便する。そういう習慣が出来ていたんですよ。
出ない時は2日、3日と出ないこともざらで。
2、3年くらい前からかな。息んだ後、ブツが出ても出なくても便器の中が真っ赤に染まる日が数日続いてはピタッとなくなり、数ヶ月くらいしてからまた血だらけの便器に出くわすというホラーな現象が起き出しました。
初めは生理の日と重なったこともあって終わり頃の筈なのに出血量多いなーくらいにしか思わなかったけど、全然関係ない日もそういうことがあって、これはどうやら別事案ぽいな、と不安になりだしたわけです。
でも、シモの事情って即病院にGOするには勇気がいる。一応、婦人科系臓器の病気で倒れ、即入院即手術というのを十代で経験している私でも、めちゃくちゃ気が重い。
一応、ネットで症状から調べて【痔】の可能性が高いというような話を拾って、命に係わる病気じゃないからいいかと安心したり、放置して酷くなってから病院行くのはもっと恥ずかしいのではと悶々としたり、まあ、長年放置して無事だったわけだし(無事ではない)トイレ行きすぎて多少腫れたり便器血まみれになるだけだし(だけ、とは……?)と、ズルズル引き伸ばしてたわけです。
ところが、たまたま遠くに住む身内と話す機会がありまして。
身内が三人癌で亡くなってる話から、そのうちの一人。だいぶ前に亡くなった祖父の話題になりました。
大腸がんだった祖父の病気の発見が遅れたのがど田舎ゆえの汲み取り式ぼっとん便所で血便に気付かなかったからで、体調不良で病院に行った時にはもう手の施しようがなかったのだと――。
え? 待って? 私、おじいちゃんと同じ血便じゃん。
たいしたことないって決めつけてたけど、これって大腸がんをあの世のおじいちゃんが知らせてくれてるんじゃないの?
恥ずかしいとか言って先延ばしにしてる場合なの?
と天啓を受け、すぐに大腸がんで調べ始めた私。
大腸なら内視鏡検査でしょ。でも、【痔】の可能性も捨て難いのに、大腸だけの専門家に診てもらっていいのかな。
どうせ尻を晒すなら、勇気出したついでに【痔】か否かも判断してもらえる病院がいい……。
あちこちに大きな看板が出てる胃腸内科と内視鏡検査、肛門外科等が有名な病院がありまして、そこが第一候補。
他に目星をつけたのが内視鏡検査に特化した病院で、肛門科も希望あれば診療可っていうところ。長年地元に根付いて云々、ってところは肛門科オンリーか。こっちは評判どうなのよ? 等々、等々……。
各サイトを隅々まで何度も見返してはあれこれの条件を比べ、えーやだなー……とこの期に及んでもまだ及び腰で、やっぱり気が付かなかったことにして放置しておくかーとまで思いかけた時、パートナーであるダンナさんがふいに言ったのです。
「自分一人なら不摂生でもいいけどさ、お互い、相手のために健康で長生きしないとだねー。それが愛ってことだと思うなー。ずっと長生きしてよ?」
症状は一切伝えてなかったし、自分自身、トイレに入ってる時のたまにまとまって起こる出血以外、痛みも出血もないので、忘れてることも多かった。
なのに、なんか突然そんなことを言い出したダンナさん。
後々聞いたら単にその時見てた映画に影響されての発言だったそうだ。
だが、第二の天啓を受け取った私は、彼に「……そういえば、たまにトイレが血まみれになるんだよね……病院行った方がいいかのな?」と告白しました。
「そういえば」というのは、なんというか乙女心って言いますか、見栄みたいなもんです。たいして気にしてないんだけど、みたいな強がりです。
彼は「当たり前じゃん!」と目を丸くして即答。
「でも、たいしたことないと思うよ……」
「それを確かめるんでしょ!?」
「大きな病気なら行った方がいいけど、もし痔(小声)とかだったら恥ずかしいし……」
「何言ってんの!? どんな病気でもちゃんと治療して治さないと! それが愛だって言ったじゃんっ」
「奥さんが痔(小声)でも、可愛いって思える?」
「奥さんが痔(大声)でも可愛いと思うのは変わらないに決まってるでしょっ!?」
コノヤロー。
デリカシーのないダンナです。
でも、ここまで言ってもらえた以上、もう四の五の言ってられないとばかりに、第一候補の病院に行くことにしたのです。
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