第11話 急転直下

アルペの乗り込んだ船を見送ってしばらくが経つ。まだ合図は来ない。少々時間が掛かり過ぎではないか。予定通り行っていないらしいことに、一抹の不安を覚える。

胸騒ぎを抑え込んで、じっと遠方に目を凝らす。

と、その時、敵の船隊の真ん中あたりで大きく火の手が上がった。アッシュの背後に控えた兵が、合図が来たと急いで船を出しにかかる。

だが。


「━━待て!様子がおかしい、まだ船は出すな!」


燃え方が異常に激しすぎる。ここからでもはっきり轟々と燃え盛る炎柱が見える。予定では敵の船に火をつけるのを合図にするはずだった。想定外によく燃える燃料のようなものが敵の船に積まれていたのだろうか?この勢いだと、アルペたちまで巻き込まれていなければいいのだが。


すると、見張り台から全体を見ていた兵士が馬を飛ばしてこちらへやってくるのが見えた。さっきにも増して胸騒ぎがする。


「アスター様っ!ご、ご報告です……!アルペストリス様の船が、敵将の乗った船に突っ込んで激しく燃えています!!」


「━━え?」


知らせを聞いた途端、アッシュは絶望で膝から崩れ落ちるかと思った。今指揮を取るのは自分だという矜持だけでなんとか持ち堪える。


「アスター様、次の指示を……!」


アルペがここまでのことをしたのだ。これは、何か想定外のことが起きたのだろう。それを知らせるためにアルペは自ら船で突っ込み敵船もろとも燃やしたのだ。ならば、今はあちらへ向かうべきではない。


「全軍、引き返しなさい!今は行っても勝機がないと判断した!一旦島に戻るわよ!」


叫びながら、気がつけばボロボロと涙を零していた。

大丈夫、どんな手を使ってでもアルペはきっと帰ってくる。約束したのだから、必ず帰ってくる。そう思えば思うほど、涙は止まらないのだった。

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