第26話 最終話 紬
紬は、恵のことがあってから…
悲しむ余裕もないほど、忙しくしていた。
残った子たちのために…
そう思いながら仕事をした。
でも、あの日の衝撃は私の身体に大きなダメージを与えていた。
休みの日に1人になると…
思い出してしまう…
主人が、一人にならないようにと気を遣ってくれた…
見つけてしまったショックより…
後悔ばかりが大きくなった。
私は…
恵の部屋には、どうしても入れなかった…
1年後の命日の日に、自分が勤務になっている勤務表とメンバーを見て
涙が止まらなくなった…
それでも、頑張っていたのだけど…
それから、1年10か月後…
ホーム編成で
恵の部屋を使用すると聞いて帰ってから
私は、施設に行けなくなった…
そして、心療内科に通い…
施設を辞めた…
ホームの上司に連絡をしたら…
子ども達が、泣いて…寂しがっていたと教えてくれた。
私が、施設を辞めてから1年半後…
高校を卒業して施設を出たと連絡をしてくれた
約束した通り、ご飯を食べに行った。
遥は、一人暮らしをしながら短大に行くと…
学費は、奨学金で何とかなるけど…
生活費は、バイトして稼がなければいけない。
父とも母とも連絡を絶っている。
誰にも頼らず…生活をしなければいけない…
遥は頑張り、2年後…無事に短大を卒業して就職した。
その後も、遥と連絡を取り…
それから、6年後…
遥が連絡が取れる子に声を掛けてくれて…
私は、子ども達に会うことが出来た。
県外に行ってしまって来れない子もいたけど…
10人以上の子が来てくれた。
みんな、見違えるほど、大人っぽくなっていた…
私は…
「急に辞めてしまってごめんね…本当にごめん…」
みんなに謝った…
そしたら、みんな…
「体調が悪かったんでしょ?仕方ないよ…」
「先生がいなくなってから、大変だったんだから…聞いてよ」
「先生にはいて欲しかったけど…こうして会えたから…」
そんな風に言ってくれた。
来てくれた子たちは…
それぞれ、就職したり…
進学したり…
家に帰っていたり…
そして、結婚して子供を連れて来ていた子もいた…
紬にとっては、夢のような1日だった…
数人の子が、恵が生きていたら…
と言った。
恵の死因は、この子たちは知らない。
私は、絶対に言わない…
そう、決めた…
これまで、色々な職場で子ども達に関わって来たけど…
いまだに思い出すのは、施設の子たちのことだ。
近所で、ラジオ体操をしているのを見ると…
夏休みに、みんなとやっていたラジオ体操を思い出した。
春は、桜の下でお弁当を食べた。
夏は、長い夏休みを一緒に過ごした。
秋は、一緒に登山をしてイベントを楽しんだ。
冬は、クリスマス会で一緒に踊った。
みんなで言った散歩…
みんなで行った野球観戦…
本当に、色々な場面で、あの子たちのことを思い出してしまう…
私にとって、施設で働いた経験は悪い思い出だけではない。
私が、出会った24人の子たち…
あの子たちと過ごした日々は、楽しくて…
どの子も、可愛くて…愛おしかった。
誰もが、親から愛情を受けたくて…
ただ、それだけなのに…受けられない環境になった…
私が、いくら愛情を注いでも…
あの子たちが、欲しい愛情ではないのだ。
それでも、あの子たちは、頑張っていたし…
生きようとしていた。
どんな子よりも、一生懸命に…
愛されたかった子ども達 秋風爽籟 @sourai-a
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