第3話 憧れ

 家に着いた。時間もかなり遅いが腹が減ってない。


 まだ俺の事が好き?


 正気の沙汰ではない。てっきり俺の悪口の一つや二つでも広めているもんだと思っていたが別れたとしか伝えていないらしい。


 どうしたらいいか考えたが全く分からん。こういうのは考えてもキリがないので今日はもう寝よう。頑張れよ、明日の俺。




 そうしてしっかり寝坊をした訳だが大学に行き無事全ての講義を乗り切った。

 

 「よ、今日飯でもいかね?」

 「蓮かびっくりしたわ。わり今日予定あんだわ。また行こうぜ。」

 「おっけー。じゃまた。」


 蓮には隠し切ったみたいだな。こいつ全部気づくから怖いんだよな。勘弁してくださいね!


 


 喫茶店に着いた。今日は俺が先だな。


 と、思っていたんだが端の席で待っていた。ほんとに何時からいるんだこいつ。

 

 席につき俺から口を開く。

 

 「理由を話せば良いんだよな。」

 「うん。聞かせて?」

 

 心拍数が早くなっているのが分かる。嘘をつくか本当の事を言うのか。今まで蓮くらいにしか話した事ないからかなり悩ましいが俺はどう話すか決めている。


 「単純に疲れただけだ。金も時間も無くなるし労力に見合っていないと感じた。それだけだ。」

 「…そっか。」

 「悪いな。情けない元カレで。」

 「ううん。いいの。でも、納得は出来ない。」

 「俺はもう会うのも面倒なんだよ。一生付き合えない奴に固執してどうする。」

 「好きなんだもん。それだけだよ。」

 「くだらないな。好きだけで時間も金も労力も削ぐのは。無意味だ。」

 「それを決めるのは私だよ。勝手に決めないで。」

 「…悪かった。その通りだな。でも俺は会いたくない。村瀬は会いたい。噛み合ってないんだよ。諦めてくれないか。」

 「………。」


 そんな顔しないでくれよ。俺が付き合うと決めた時に絶対にさせないと決めていた顔。今にも泣き出しそうなその顔。


 「分かった。彼氏を見つけるか俺の事を好きじゃなくなるまでだが。月一回、月一回だけなら一緒に出掛けてもいい。それ以上は無いし俺がもう一度付き合う事も絶対にない。」

 「いいの?」

 「やりたくはないけど。ここが折衷案だろ。俺はもう彼氏じゃないから手も繋がないし無理に笑う事もない。それでも良いならこれでいい。」

 「分かった!絶対に好きにさせるからね。」

 「もうなにも言わないわ。好きにしてくれ。」

 「うん!」

 「もう帰ろう。つかれた。」

 「そうだね。帰ろっか!」

 

 面倒だがやるしかない。無駄だと俺が分からせてやる。彼氏になってしまったものはしょうがない。責任取ってやるとしよう。


 


 村瀬と別れた後、問題もひとまず片付けたし美味いラーメンでも食うか、と思い目に入った店に入る。醤油ラーメンを注文して席に着く。

 

 「間上か!」

 

 誰だこいつ、と思いながら横を見るとそこには高校時代の恩師である濱川先生だった。


 「先生じゃないですか。こんなとこで一人飯ですか?合コンでもしてたんですか?」

 「黙りなさい。相変わらず生意気なやつだなほんと。いまは一人暮らしか?」

 「そうですよ。家来ます?」

 「さすがに元生徒の家に行くのは気が引ける。気持ちだけ受け取っておくよ。」


 こういうとこが格好良いんだよなこの人。


 濱川先生には何度もお世話になった。進路もトラブルも悩みもだ。この人には話したくなってしまうんだよな。

 

 話が弾みながら飯を食べ終わり先生が外で煙草に火を付けた。俺も火をつける。


 「なんだ、お前も始めたのか。」

 「格好付けたくて。先生と同じハイライトですよ。」

 「よく分かってるじゃないか。こいつが一番美味いからな!」

 「間違いないです。」


 本当は先生みたいな人間になりたくて真似してるだけなんだけどそれは恥ずかしいので言わない。

 

 「最近どうだ。可愛い彼女の一人でも出来たか?」

 「その可愛い彼女とは別れたばっかです。」

 「…すまん。」

 「いいんです。振ったのは俺ですから。」

 「なんで。」

 「ま、色々とですかね。」

 「変わらないな。お前らしいというか。誰かに相談でもしたのか?」

 「まあそれなりには。」

 「してないだろ。」

 「先生もなにも変わってませんね。なんでもお見通しですか?」

 「まさか。俺にも分からない事はある。」


 そう言って分からなかった事ないでしょあんた。凄いよ。本当に。


 「話、聞いてくれます?」

 「勿論だ。俺は先生だからな。」

 「家来てくださいよ。」

 「…どうしても?」

 「何がそんな気に食わないんですか。俺がいいって言ってるのに。」

 「…なんか、申し訳なくなる。」


 なにこの人可愛い。本当に男か?


 「じゃあつまみと酒買ってくださいよ。それでおあいこって事で。」

 「…なら、お邪魔になるとするか。」

 「ありがとうございます。」

 「おう。気にする必要はない。俺がしたくてしている事だ。」

 「…格好良すぎますね。」

 「なんて?」

 「いえ、なんでもないです。行きましょうか。ここから近いですよ。」

 「そうなのか。俺より良い所住んでんじゃん頑張ろう……。」

 「…すいません。」


 思わぬ地雷を踏んだようだ。この人の地雷未だに分かんないな。

 



  

 

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俺が振った元カノがしつこすぎる。 れぷりか。 @Ru_ba927

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