いつも君のそばに

青藍

いつも君のそばに


放課後、いつものように教室には残っている生徒たちがちらほらと。主人公の斉藤翔太(さいとう しょうた)は、今日も一日が無事に終わり、教室の片隅で荷物をまとめている。彼は優しくてお人好しな性格で、クラスメイトからも頼りにされている存在だ。だが、彼の心の中では、ちょっとした悩みがあった。


「翔太、ちょっとこっち来て。」


声をかけてきたのは、桜井咲良(さくらい さくら)。彼女は翔太のクラスメイトで、普段は冷たく、ちょっとツンツンした態度を取ることが多い。でも、翔太だけに見せる彼女の一面がある。それは、咲良がふと見せる甘えたような顔で、翔太にとっては心の中での大切な秘密の一つだ。


翔太は微笑みながら彼女の方に向かう。


「どうしたの、咲良?」


「……べ、別に。ちょっと教えてほしいことがあって。」


咲良は顔を赤くしながら、翔太に近づいてきた。翔太はそれが恥ずかしい気持ちを隠しきれない彼女の素振りだということに気づかない。


「何でも聞いていいよ。」


翔太は笑顔で答える。しかし、咲良は少しむっとしたような顔をして、その後ろでそっと息を吐いた。


「なんでそんなに優しいんだよ。あんたって、本当にお人好しすぎるんだから。」


「え? なんで?」


翔太は全く気づいていない。咲良が照れ隠しに少し顔をしかめているのに。


「なんでって…、そのままじゃダメだって思うの?」


翔太が首をかしげると、咲良は一瞬目をそらしてから小声で言った。


「…別に。あんたが優しいからって、ありがたくなんて思ってないんだから。」


その言葉に翔太は少しだけ困惑し、でも咲良がどこか寂しげな目をしていることに気づく。


「咲良…」


翔太はそのまま静かに彼女の手を取った。咲良は驚き、目を見開いた。


「俺、咲良のこと、ずっと大切に思ってるよ。」


その言葉を聞いて、咲良はハッとした。彼は無意識に咲良を気遣い、優しく接していた。しかし、咲良がどれほど彼の優しさを求めていたのか、気づいていなかった。


「…ばか、私だって、翔太のこと、大好きだよ。」


咲良がそう言うと、翔太は嬉しさと驚きで一瞬言葉を失った。しかし、その後、咲良の顔が急に赤くなる。


「な、何よ、あんた。こんなこと言わせて…!」


咲良は手を引っ込めようとするが、翔太はしっかりとその手を握ったまま、優しく微笑んだ。


「ごめん、驚かせちゃったかな。でも、本当に思ってるんだ。」


「…ちょっと、言うことがいちいち遅いんだよ!」


咲良は顔を背け、恥ずかしそうに腕を組んだが、翔太はその姿に笑いながらも、心から彼女を大切に思っていることを改めて感じていた。


「ほら、また恥ずかしがって…。」


「だから!別に恥ずかしくなんかないし、しょうがないから言っただけよ!」


咲良は顔を真っ赤にしながら、手を振って翔太から目を背けた。しかしその心の中では、翔太の優しさに胸がいっぱいで、どうしても素直になれない自分に苛立っている。


「咲良、もし嫌だったら、もう言わないけど…」


「嫌じゃない、馬鹿!」


咲良は勢いよく翔太の言葉を遮ると、思わず彼に向かって腕を伸ばす。翔太はその動きに驚きながらも、咲良が自分に抱いている気持ちを、ようやく確信することができた。


「翔太、ちゃんと聞けよ。」


咲良の声はもう照れ隠しなんかじゃなく、少し真剣な響きがあった。翔太はそれに反応し、真剣に咲良の目を見つめる。


「私、あんたが優しすぎて、どうしていいかわかんないんだよ!でも、それでも…、こうして一緒にいると安心するし、ほっとするんだから。」


咲良の言葉は、翔太にとって何よりも嬉しいものだった。その一言一言が、翔太の心に深く響いた。


「俺も、咲良と一緒だと、すごく安心するよ。」


咲良は少し顔を赤くし、頬をふくらませながら、また一歩下がった。


「そ、そんなこと言うから、余計に恥ずかしくなるんだよ!」


その言葉とともに、咲良は何かを振り払うように手を振りながら、テーブルの向こうへ歩いていった。だが、すぐに小さな声で言った。


「…でも、ありがと。」


その一言を聞いた翔太は、咲良の心がほんの少しだけでも開かれたことに、嬉しさを感じる。


その後、二人は無事にテストを乗り越え、ますます距離が近づいた。咲良は翔太に対して、今までよりも少し素直に愛情を伝えることができるようになった。


「翔太、明日も一緒に勉強しようね。」


「うん、もちろん。俺、咲良と一緒にいると、すごく楽しいから。」


その言葉を聞いた咲良は、嬉しそうに微笑みながら、翔太の腕に軽く寄りかかる。


「…だ、だから、何度も言わせないでよね。バカ。」


そんなふうに、二人の優しい時間は、ゆっくりと続いていくのだろう。


放課後、教室の片隅で、翔太と咲良は二人きりになった。ほかの生徒たちはすでに帰宅していて、教室には静寂が広がっている。


「ねえ、翔太。」


咲良が少し照れたように呼びかける。その声にはいつもと違う柔らかな響きがあった。


「うん? どうしたの?」


翔太は何気なく振り返り、咲良の方を見た。その瞬間、咲良の目が少しだけ強調され、顔を少し赤らめながら言った。


「…さっき言ったこと、ちゃんと覚えておいてよ。」


咲良は普段のようにツンツンとした口調で話すが、その目線にはほんのりとした甘さが混じっていた。翔太はそれに気づいて、思わず微笑む。


「うん、覚えてるよ。咲良が言ってくれたこと、すごく嬉しかったから。」


「そ、そうやって調子に乗らないでよ!」


咲良は顔を赤らめながら、翔太から視線を逸らす。でも、翔太はその様子に何度も胸が高鳴るのを感じる。


「でも、咲良が言ってくれたから、俺もすごく嬉しかったんだ。」


「な、何よ…本当に、あんたって…。こんなこと言われると、どうしたらいいか分かんないんだから!」


咲良は口を尖らせ、腕を組んで一歩後ろに下がる。しかしその姿も、翔太には可愛くてたまらない。


「じゃあ、どうしたらいいの?」


翔太は少し冗談を交えながら問いかける。咲良は少し考え込み、恥ずかしそうに顔を赤くしてから、最終的にこう言った。


「…まあ、いいじゃない。あんたがそんなに嬉しいなら、少しだけでも素直になってあげる。」


その言葉に、翔太は驚きとともに心が温かくなるのを感じた。咲良が見せた一瞬の素直さに、これまでの時間が凝縮されているようで、胸がいっぱいになった。


「ありがとう、咲良。俺、頑張るから、これからも一緒にいてくれるよね?」


咲良は少し考えた後、照れ隠しに笑って言った。


「…うん、仕方ないわね。」


その笑顔が、翔太の心に深く刻まれた。

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