第39話 回想2008年 18R

 週2~3の頻度で、ダーシーは何食わぬ顔で相変わらず来店しており、その都度「高設定台」を掴んではいるものの、勝率は明らかに落ちていた。というのも、ほぼ「漏洩」を確信した山田が、夜、一旦、いつものように渡邊らとやりとりして設定表渡して、高設定も配分したままで、各種の札を差し終え業務終了退館帰宅就寝起床後に、早番の「渡邊グループ」以外の主任に、「予算進捗心配だから高設定のところ低く打ち換えておいて、札はそのままでいいから」と電話連絡で指示出したりしてたからだ。これはもう完全にダーシー嵌め込み作戦である。


 さらに言うと、この段階、9月2週目くらいで、モニター再生画面を接写したダーシーの遊技画像、設定表本体のコピー、設定数値入力欄のある各台データ画面をプリントアウトしたもの、役職者の出勤表、等、必要書類一式耳を揃えて、新島部長に「上申」してあったのだ。「設定漏洩疑惑」の存在あるよ、ということで。


 そのやりとりの過程で、上述した「ダーシー嵌め込み」作戦のような行動とることの許可を得てもいたのである。


 ふむ、そういうことなら、「漏洩グループ」が動揺するようなことをやって、反応をうかがうのもよし!というかその方が無駄な放出せずに済むし経営的にも一石二鳥だっ!っていう皮算用を新島が働かせるのも当然な経緯である。


 このあからさまな「嵌め込み」は渡邊グループへの牽制にはなったようで、疑心暗鬼になっているようだ、と篠崎から逐一報告が入る。と同時に2ちゃんの「店長山田極悪人説」の論調もヒートアップし、そろそろこれ開示請求、削除要求のレベルではないのか、というところであったが、事業部レベルでは様子見、高見の見物を決め込む判断。秀美部長にもこの事態の進行ぶりは伝わっていた。


 ということで、「第18話 2007年 10月 パチモン店長板挟み」のところ、店長会議で山田が持論ぶち上げまくって、どんどん孤立する感じになってた、あの時期に突入してくるわけだが、あの会議での秀美部長とのやり合いとか、孤立する感じ、とかは事業部サイドでは、なにもかも「折り込み済み」で、実は「全体の様子」をうかがっていた側面もあったのだ。


 人数多い、氷河期入社集団の横のつながりで、会社に反旗を翻す行動とってる者がいるのかいないのか探ってやるぞー、みたいな。


 阪東、梶山と時期が近い、90年代最終盤入社、社歴8,9年の「若手」店長の数もそろそろ二桁にのりそうな勢いでもあったし、「漏洩」疑惑に接した秀美部長も、「若手登用」の刷新ムードはそのままに、しかしどこかで手綱を締めなおさねば、と考えたところもあった。あの場で、山田攻撃に便乗する「若手」がもしいたら、「漏洩」グループに近しいのではないか?と疑ってみる、みたいな。


 というか、「組織人」としての「生き残り」という観点でいうなら、あの時「はいはいはいはい、はーいおれおれ!」とどうしても教師の質問に対して自分を指して欲しいアグレッシブな生徒のような挙手をして、山田に助け舟を出していれば実は己の評価はうなぎ登りになっていた、ってことでもあったわけだ。が、それはいまとなってはどうでもいいことである。


 そして、堕落したパチモンの自分が「WEB対策チーム」の懇親会でメーカー批判をぶちあげた為に保科長老と対峙していたその前後のあたりで、いよいよダーシーと渡邊グループの繋がり解明か!?というような流れに鴨宮はなっていたらしく、なので長老は自分が退室する際に「山田を信ずるや否や」を訊いてきたのだろうと思われる。こちらのまったくあずかりしらないところで、事態は大きく動いていたのだ。


 11月の段階で、店舗駐車場内で渡邊グループの一員梶山とダーシーが密かに会話しているところを篠崎が目撃した。一瞬のことだったので携帯で写真撮影する余裕はなかったらしいが、このようなあからさまな「接触」場面は初めて目撃することでもあったし、事業部長、秀美部長の了承を得て、山田軍に、前回異動で鴨宮にそのまま残ったグランドオープン要員の主任2名、杉山と塩崎も「偵察要員」として引き込んで捜査体制を強化した。二人は驚いた様子ではあったが、やはり内心渡邊らに何がしかのうさん臭さは感じていたようで「はい、よろこんで」とすぐさま協力し始める。


 12月3週目の金曜に川島が夏と同じ会場での「レイヴ」に誘われる。阪東の川島へのメール攻撃はその後も流れ作業の惰性で絵文字多様しつつも確実にセクハラ認定されるエロトーク面も交えて同じペースで継続中だったわけだが「レイヴ」なら行きます、という返答も、この流れでは自然だったので怪しまれる風もなかった。

 

 そして、遂に川島が「渡邊、阪東、梶山、奥田(ダーシー)」が一堂に会している場面の撮影に成功、さらに会話の録音にも成功、この決定的な物的証拠をもとにして事業部が動き、各自別途バラバラの時刻、場所に呼び出しをかけて「設定漏洩」の事実を概ね解明し、年明けに実質懲戒解雇の自主退職扱いで3名共に退社。丁度、自分が店長職から新設部署の「資材管理チーム」に移った頃の組織改編期のドサクサ紛れのことだったのだ。ほどなく中野坂上店閉店もあったし、過去数年にわたる新卒大量採用時期もあったし、鴨宮で一気に3名抜けた分はすぐに穴埋めできる社内体制でもあった。


 川島の漏洩グループ4名撮影&録音成功現場の流れだが、そもそも川島とダーシーが元同級生だということを渡邊、阪東、梶山が知っているのかどうなのかは捜査する山田軍側には不明なのであり、それは阪東のセクハラメール確認面談の翌日に食事休憩対応でダーシーと川島がバッタリ顔合わせたことを、ダーシーが渡邊らに伝えたのかどうかこちらには不明だったからだ。それがどちらかわからないにしても、とにかくもし会場で渡邊ら3名とダーシーが当初別々に動いているのであれば、川島が単独行動のダーシーを渡邊らのところに連れて誘導することにしよう、と事前に決めておいて、運よくそういう人の流れになったわけだ。


「あ、奥田君じゃん、何、来てたんだ、へえ、あ、ほら、お店のみんなも来てるよー、あっちあっち」と3名のところに連れて行く。「お、おう、来たかー」となってるところを、はいはいはい、折角みんな集まってることだし、と堂々記念撮影風にまずカメラ目線でこちらを向かせ携帯で撮影。場がやや混乱しているところ手持ちバッグ内のボイスレコーダーを稼働させる。


 その時、場が混乱していたのは、つまりダーシーは川島のことを渡邊らには何も伝えてなかった、ということだったわけだ。伝えなかった動機は「美味しい仕事」を終わらせない為、ということであろう。このあたりある程度「山田軍」の読み通り。


「ん?なになに?君ら知り合いなの?」と阪東のちょっとひきつった感じの声、

「え?これどういうことなんだ?」と梶山の声、


 ダーシーかなり遅れて到着した為に、渡邊ら3名そこそこ酔いが回ってたのも山田軍勢には幸運な要素であった。というのも、その阪東と梶山がちょっと混乱したようなものの言い方になってた同じタイミングのその時渡邊が最も飲酒量多く酩酊手前くらいになっていたのだ。なものだから、

「ん?ああ、川島さんは、ねえ、そりゃなんつったってこの可愛さだもん、あーた、そんなもん、もとからおれらの味方だもんねえ」とかいうのを皮切りに、自分らの犯行を吐露するような「言っちゃまずいこと」を立て板に水のごとくべらべら喋り倒してしまい、それはすべて川島の(というより山田が貸した山田の)ボイスレコーダーに収まったのであった。


 穏やかな陽光で波頭が光る様子の見渡せる小田原の漁港めし居酒屋兼定食屋でこれらのいきさつをざっと聞いて、あらためて山田の引きの強さに嫉妬まじりの感情も多少芽生えたのだが、まあ、老兵同士、よく頑張ったではないか、という慰労するような気持の方がだんだん強まっていった。


 6月予定の人事における事業部課長職への昇進昇格異動を内示された、という。

まあ、そうだろうな、とも思った。ここまでくると最早嫉妬もない。


 ただ、それもまだ受けると即答したわけではない、ともいう。

「現場店長」職でのヘッドハントも好条件で来ているという話だった。

しかし妻の旧姓白根さん(西川口野球の人)は残留希望の意見らしく、多分残ることになるんじゃないかな、と。


 いや、山田はん、あんたはん、ほんまもんのプロですわなー、感心しますわ。

みたいなちょっとくだけたニセ関西弁で心底へりくだって褒めたたえたんだが、

「いやいや、今日も家帰ったらビデオで最新機種の映像見なきゃだし、なかなかとりつくろうのも大変だよ、このご時世」とかいうので、

≪なんだおまえもか≫、と内心ひとりごちた。



 


 


 



























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パチモン店長 辻タダオ @tsujitadao

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