第11話 回想西川口1989 8月 2R
その宮内、裏の顔あるんじゃないの?の内情だが、このような人物に往々にしてありがちなのが、ストレートな「女好き」っていうニンフォマニアックな面が隠し切れないっていうのか、そもそも端から隠す気あるのかないのか、下の者どもに対する横柄で厳しい手荒い扱いっていう部分、男女差のないよう公平に「とりあえず」やってます感あからさまで、同じ厳しい言葉を吐いても男の場合は吐きっぱなしで以上終了、なのに対し、女相手だと厳しい言葉のあとに大概「でOOちゃんさあ、OOの件だけどさあ」といった按配で猫なで声でなんらかのフォローをいれてくるらしい。
そりゃもうとてもわかりやすく。
男は完膚なきまでに叩き潰すが女には何らかのとっかかりを残しておくという傍で見てても実に露骨な態度の違いがもうバレバレ。
いやまあこれ実際に自分がみたわけではなく、白根さんの証言に基づいて、その時一度頭の中で組み立てた宮内像なんだが、全くそのとおりだったので白根さんの描写力に脱帽する他ない。口真似顔真似までしてたし。いるいるいる、そういうやつっていますよねえ、みたいな。というか後刻「全くそのとおり」を知る場面で、自分としては「驚き」の展開があったわけだが、それは後に記す。
イケメン好みではあっても退廃は好まぬ王道消費者白根さんは、宮内着任二日目から「こいつは敵だ」と認識していたらしいのだが、先端習俗を好む笠原さんは確かに抵抗感はあったものの、逆に宮内の闇の光が放つオーラみたいなものに惹かれたのか、いつのまにやら肉体関係に。
肉体関係、ってなところまでくると宮内は前述したようなわかりやすい行動を加速するようなことはなく、自然平然を保ち、事を深く静かに潜行させる手練手管みたいなのものをやはり持っていた。
伊達に店舗の営業成績が図抜けてるだけの人物ではないということだ。対笠原反目戦真っ只中の白根さんもまさかそんなことになっていようとは、って感じだったらしい。
ファッション性の違いはあっても人間性の違いにそれほど隔たりはないこの二人、ある日「なんかちょっと調子悪そうじゃない?どしたの?」っていう白根からの直接対話から、パンドラの箱ちょっと薄めに開き始めましたよー、って展開がスタート。
笠原さん、敵将白根にそのように気遣われて戸惑ったけれど、逆にすぐさま同性同士の悩み打ち明けモードってのも久しぶりにいいかもしれない、と瞬間考えはしたのも束の間、やはり今進行中の問題の根深さに尻込みする気持ちもあり、その時は「ううんなんでもない。ごめんね心配かけて」と軽く切り上げたのだが、その後、数日、数週間、をかけて少しずつ宮内と自分の間におきたことを白根さんに話始めたのだった。
先刻、薄暗いホールで「野球に宮内くるらしいけど、どうなのよそれ」と白根さんが自分に話振ってきたのは、宮内といろいろこじれてヤバいことになってそうな笠原さん「野球参加者」なんだけど、今この時期にその二人が同じ場所にいるとかどうよそれ?っていう「懸念」表明であったわけだ。
この「宮内問題」を自分はその時までに把握してたわけだが、それはもちろん白根さんから聞いたわけで、後に笠原さんも交えてにこの件で話をしたし、何故こういう隠微な話題に自分が加わっいるのかというと、「新人歓迎」の宴席の際に白根さんが隣に来た時「あんたなんでこんな客層悪い店に大卒新人だってのに来たわけ?ばかなの?」と訊かれ、「いやそんなの浜井さんについてきたに決まってるじゃないっすか。自分浜井さんと一蓮托生ですからっ!」と即答したのを「うん!あんた気に入った!仲間ね仲間!うん!飲みなさい!騒ぎなさい!」つってビールガンガンつがれたっていうあの日のことがあったから、という経緯。
さて先ほどサディスト宮内の尻尾を「つかみかけている」、という書き方をしたのは、それまでの自分と白根さんの間の共通認識が①笠原、宮内と肉体関係あり②関係結んだ直後から早くも宮内は冷淡な態度で、時に別れをほのめかす③納得いかず、問い詰めもするが宮内の態度に改善の兆しなし、と、このあたりまでで、要するに内々の「痴情のもつれ」レベルの話だったから。
笠原不在時に自分と白根さんで憶測であれこれ口に出して推論していたのは、笠原さん妊娠→中絶あったかも、いや、それはこれからかも、というそのあたりのさらなる踏み込みのところ。
踏み込んで笠原さんに訊くべきか本人が言わないならそっとしておくべきか、と若干悩んだがまあ現代人のたしなみとしてそっと時を待つの方を選択。
で、ややこしいことだが、笠原、白根、そして自分という3名のなかで、自分だけが知っていて他2名は知らない、というか知らせるのもちょっとどうか迷う「宮内情報」もあった。
所沢に「実習」で配属されている大卒同期の春日という駒澤経済出身の男から聞いた情報もあれこれあったのだ。
かいつまんでいうと宮内、異動先の所沢では、西川口にいた時ほどのあからさまな「恐怖支配」はやってないそうで、春日が言うには大卒「実習」で回ってきている自分の存在を気にしているんじゃないか?と。
春日はパチンコではなく飲食部門希望で入社してきた陽気な男。で、大卒新入社員全員うっすら気配察知しているところだが、幾千万本社としては、新入社員一人でも多くパチンコ部門に回したい、という空気が露骨ではないにせよ節々に垣間見られる。なので凄く気を使われるし、扱いもこれでもかこれでもかというくらいに丁寧だ、と。それもあって当初気が付かなかったのだが、現地生え抜きの者、社歴長くて所沢に限らず他の場所でも宮内と接した時間そこそこある者、などと打ち解けていくうち、だんだんと宮内の実像を知ることとなり、その恐ろしさを直に見知ることになったのが、円満退社の者の送別会の宴席だったという。
上機嫌に酔った宮内が自らの快楽論を滔々と語りだし、その流れで宿敵浜井さんを俎上に載せ、結婚四度各所に子供8人、というこの有り様を徹底的にこき下ろし始め、「だいたい籍入れるってだけでもダサいし子供産ませるって痴呆かなんかかそれ」と言い放ち、対女性局面における自らの基本方針を示した。
「やり逃げだよやり逃げ。もうこれ。これ以外にあるか。男のとるべき道が。え?ああそりゃもうどこでもやり逃げよ。西川口だろうとなんだろうとどこでもやり逃げっすよそんなもん」とぶちあげてた、と。かなり酔ってたらしいが。
まあちょっとこの材料だけで断言するのもどうかと思うが、宮内は笠原さん妊娠させて中絶もさせてた可能性かなり高い印象あるうえに、笠原さんが望むような「冷淡な態度改善」どころの話じゃないじゃん!と。
笠原白根両名に話せないってのは、この内容って「上手く伝える」とかやりようがないではないかってところ。
そうして二人には話さないまま時を過ごしている間に暗いホール内で白根さんから「宮内、野球に来るかも、」の件を聞き及び、なんだかふつふつと怒りの気持ちが湧いて来たのだった。
宮内一体どうゆうつもりなんだ!?みたいな。
「第三者」なのに、自分まで内心、敬称略で宮内を「敵」扱いするようになっていたのだった。
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