ギルドで清掃ばかりしてたオレが授かったのはお掃除スキルのパワーウォッシュ~絶望の淵で出会ったのはダンジョンボスの女の子だった~

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清掃員クリア、早速死ぬ寸前。

「ばーか! 見せしめで人を殺そうとすんじゃねえよ!」


 落とされた穴の底で、仰向けになったオレは喚いた。


「オレは死んでねえぞー!」


 当然誰からも返事はない。

 そりゃそうだオレが何百マール落ちたと思ってんだよ。オレがバカだな。


「てかよ! そもそもガノウ神がオレに戦闘系のスキルをくれてればこんなんならなかっただろうがよ! クソ神が!」


 オレは仰向けのまま、今度は天にいるガノウ神とやらに唾を吐く。

 こんな場所じゃ天も見えねえし、吐いた唾はすぐにオレに返ってきたけどな。

 冷えし臭え。


 でもよう、それぐらい良いじゃねえか。

 うす暗れえし、魔力切れで身体も動かねえし。何よりさっきからすっげえでけえ魔物がオレを取り囲んでんのがうっすら見えてんだよ。なんで襲って来ねえのかわかんねえけど、コイツらが痺れを切らして襲いかかってくりゃひとたまりもねえ。

 あっという間に死ぬわな。だからよガノウ神に軽くあくたれたって許してくれよ。


 なんせ今日はオレの幸せな人生設計が足元から崩れた記念日なんだからよ。


 はー。こんなはずじゃなかったんだよな。

 オレの計画じゃーよー。

 有能な攻撃系のスキルを授かって。

 その日に冒険者になって。

 有名なパーティにスカウトされて。

 金を稼いで。でけえ家に住んで。うめえもん食って。

 このクソみたいな生活から抜け出せるはずだったんだよ。


 全部がダメになっちまったなー。


 だって。

 オレが授かったのはパワーウォッシュとかいうワケわかんねえスキルだったんだから。


 ちっくしょう。

 あーそれでもちょっと前までは希望があったってのによう。

 なんでこんなスキルでトップパーティのゴッドブレスに入れるなんて甘い話に乗っちまったんだろうな。

 乗ったも何もお願いしたのはオレからなんだんだけどー。ダメ元だったのによー。


 世の中に甘い話なんてねーんだよなー。

 なんだってんだ、ほんとにオレはバカやろうだな。


 まあいいや。


 おいそこの魔物ども。

 お前らがオレを食うまでのちょっとの間でいいからよ。

 ここ二日間のオレがどんだけ希望に満ちてたか、って話を聞いてってくれよ。


 ◇


 昨日もいつものように、神父の説法から一日が始まったんだぜ。


「地母神が星を生み出し、その肉で土を作り、その血で水を生み出した。その肉の中にあった粒が木や草となり、流れる透明な血を吸っ……うんぬんかんぬんで、なんとかかんとかで……モニャモニャモニャモニャ……」


 オレの耳には聞き飽きた神父の言葉がすでに言葉には聞こえなくなってる。


 神父が語るのはこの国の国教であるガノウ教の神話だ。

 毎日毎日飽きもせずに、神父はこれをオレらに語る。

 まあようはガノウ神がどんだけ凄えかってのを語ってるわけだ。

 毎日やってるだけあって中々に堂に入ってるけど流石に聞きあきたぜ。


 でもこれは義務だから聞かなきゃしゃあねえんだよな。

 なんせオレらは教会に飼われてる孤児なんだからよ。


 義務だからって理由だけでこんなんを我慢してるかっていやあちと違う。

 この後に大事なお恵みがあるからってのが一番の理由だ。

 お恵みがなにかって?

 パン、パンだよ。オレらのおまんまだ。


 あー思い出したら腹減ってきた。


 説法の最中にも。

 ぐうと、誰かの腹が鳴る。


 あれはオレだったかもしれねえ。

 もう少し我慢しろと、オレは自分の腹を押さえたんだよな。


 なんせパンのお恵みまではまだ時間がかかる。教会から恵みのパンをありがたく頂戴するには、聞き飽きた長い説法を頭からあびるだけじゃもちろんダメだ。そこから作業がまだ続くんだよ。これが長え。


 指折り数えられるぜ。


 教会の清掃、だろ。

 近隣の清掃、だろ。

 そっから。

 ちょっと離れた小金持ちの家を一つずつ回ってお布施のお願い金の無心だ。

 併せて二時間。


 朝の六時からこれらを全部やって。

 オレらに与えられるのは。


 日に一つのパン。


 これが教会で保護されているオレら孤児に与えられる唯一の食事だってよ。

 朝起きて、雑巾で顔を拭って、無駄な説法を聞いて、教会やら近所やらの掃除をして。

 神に祈りを捧げて。他人に金をたかって。

 それからやっとパンが与えられる。


 ガノウ神ってのは凄えな。


 言っとくが、皮肉だぜ。

 そんな腹の足しにもならねえ不満をごくんと飲み込んで、代わりにしおらしい感謝の言葉を口から吐き出しながら、腕に籠をさげたシスターに小さく頭を下げて、やっともらえるそのパンを、受け取りざまにオレは一口で頬張り、教会の外へと駆けだした。


 走って走って、教会の人間が見えなくなった辺りでオレはあくたれる。


「オレみたいな年のガキが、パン一つで生きられるワケねえだろうが、バカやろう」


 次の飯のタネがある場所までオレは駆けていく。

 でもよ。

 この時はまだ希望があったんだよな。強力なスキルをゲトってミスリル級冒険者になるって希望がよ。


 そんなオレの名前はクリアだ、姓はねえ。

 生まれた時から教会にいるからな。


 捨て子ってやつだよ。

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