第2話 悪魔と聖女
『なるほど。その娘だったか』
「誰じゃ!?」
突然会話に割り込んできた重苦しい、いや、甲高い?……よくわかりませんね。不思議で気持ち悪い声でした。
『くっくっく。我はメルドロウ。誇り高き魔神に使えしもの。聖女は殺す!人間も殺す!!!』
なんと悪魔です。
「「「「「きゃああぁぁあああぁあああぁああああああ!!!!!!」」」」
貴族たちが悲鳴をあげて逃げ惑います。
「きっ、騎士団!悪魔を討つのじゃ!」
「「「はっ!」」」
『くはははは。貴様らごとき、我には一切触れることもできぬだろう。喰らえ!』
国王陛下は騎士たちに戦うよう指示しますが、悪魔が手を振るうと黒い魔法が放たれ、あっさりと全滅してしまいます。
これはまずいですね。
"浄化"を使うべきでしょうか。しかし、私は今まで使ったことがありません。
「待て!リーズ逃げるな!その娘、ミリアと言ったな。"浄化"を使えるなら使え!」
「なっ、父上?あれは悪魔です!」
「だからこそじゃろう!」
「くっ、ミリア。頼む」
「えっ、王子様!?無理です。私……」
「なぜじゃ!"浄化”を使えるのじゃろう!?ならば見せてみよ!そうしなければ誰も信じぬ!」
国王陛下はリーズ王子とミリア嬢に命じられました。
大丈夫なのでしょうか?あの慌てようでは失敗もあり得そうですわね。私も準備しておきましょう。
使い方はきっと普通の魔法と同じで、詠唱し、魔力を渡せばいいはずですから。あと必要なのは勇気だけです。
「さぁミリア!キミの力を見せてくれ!そして僕と真実の愛を」
「無理ですわ!?私は……」
えっと、アワアワしてるだけですが本当に大丈夫でしょうか?なぜ使わないのでしょうか?
『ふん、覚悟は定まったか?ではもう待つ必要はないな。死ね!!!』
そう言うと悪魔が王子とミリア嬢に向かって何かの魔法を放ちました。
悪魔は詠唱すら行う必要がなく、身動きするだけで魔力が動き、魔法を放つ。
伝承の通りのようです。
「ぐぁあ、みっ、ミリア!」
その魔法は王子を切り裂きます。王子はミリアに向かって手を伸ばしていますが……
ぱたり……
なんとミリアは倒れました。えっ?魔法が当たった?……当たったようには見えなかったけど。
うん、全く外傷はありませんね。気絶しただけでしょうか……その周囲に水たまりが……えっ?恐怖で気絶して失禁したの??
『くはははははは。これが"浄化"を持つ聖女だと?あっはっはっはっは』
響き渡る悪魔の笑い声。
ひたすら不快な音です。
そして倒れ込んだミリアに向かって手を伸ばしていたリーズ王子はどうしたらいいのか分からないといった風に腕を右往左往させています。
『まぁいい。全員死ね!!!』
そして悪魔が何やら魔力を溜め始めました。
これはまずいですね。学んだ書物によると、悪魔がわざわざ魔力を溜めるというのは、なにか巨大な攻撃をするときと書いてありました。
人間で言う、大魔法でも使うつもりなのでしょう。
「くっ、退避じゃ!」
国王陛下は今の王子たちの茶番劇の間にも避難を始めていましたが、間に合うかは微妙……いや、悪魔の魔法の威力がわからないので何とも言えませんが、もし王城自体を崩すようなものだったらどう考えても間に合いません。
「エレナ様!」
しかしこのタイミングでなんとラーズ王子が私を守るように悪魔との間に立ちはだかりました。
カッコいいですわね。
その姿を見て私は覚悟を決めました。
もう準備万端ですし。
「"浄化"」
私がその魔法を唱えると、ごっそりと魔力が持っていかれました。
これは凄い。
体の芯から何もかもが抜けていく脱力感。
あぁ……えっ?これ魔力足りますか?大丈夫ですか?
そんな疑問が湧いてきますが、私の中から魔力を抜き取ったそれは……私に向かって微笑んでいるようでした。大丈夫だと。
それを感じて私は意識を手放しました。
『ばかな!?真なる"浄化"だと!!!?ぐあぁぁあぁぁあぁああああああ!!!!!!???』
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