第7話「音楽と救い」
夕焼けが街を赤く染める頃、涼音は小さな音楽スタジオに足を運んでいた。
ここは彼女が時折顔を出す場所で、若いミュージシャンたちが練習やセッションを行う拠点だった。
涼音の音楽に憧れる彼らは、彼女を「先生」と呼び、アドバイスを求めていた。
だが、涼音自身は「教える」という意識を持っておらず、ただ音楽を共有する場として訪れていた。
スタジオに入ると、ギターを抱えた青年が焦った様子で立っていた。
「涼音さん、来てくれてありがとうございます!実は、明日のライブに向けて練習してたんですけど、なんだか全然まとまらなくて……。」
その言葉に、スタジオ内で練習をしていた他のメンバーも、申し訳なさそうな顔をして立ち上がる。
涼音は微笑みながらギターケースを下ろし、椅子に腰を下ろした。
「どんな感じになってるのか、ちょっと聴かせてくれる?」
彼らが練習していたのは、オリジナルの曲だった。
ギターとキーボード、カホンというシンプルな構成だが、それぞれの音がバラバラで、どこか噛み合わない部分が目立っていた。
演奏が終わると、メンバー全員がどこか気まずそうな表情を浮かべる。
「やっぱりダメですよね……音が繋がらない。」
ギターを持った青年がため息をつきながら言った。
涼音はゆっくりと首を横に振った。
「悪くない。でもね、音が一人一人のものになっちゃってる。音楽は、全員で一緒に一つのものを作るものだから。」
そう言いながら、彼女は自分のギターを取り出した。
「ちょっとだけ手を貸してもいい?」
メンバー全員が頷くのを確認し、涼音はギターの弦を軽く弾いた。
その音は柔らかく、スタジオ全体に響き渡る。
彼らが演奏していた曲のメロディを拾いながら、新しいフレーズを加える。
「今度は、これを基にしてやってみて。」
涼音が静かに言うと、メンバーはそれぞれの楽器を構え、もう一度演奏を始めた。
最初はまだぎこちなかったが
次第に音が一つにまとまり始める
涼音がギターでメロディを引っ張り
カホンがそれに寄り添うようにリズムを刻む
キーボードが全体を包み込むようにコードを重ねると
音楽は大きな流れとなり部屋を満たしていった
演奏が終わると、彼らは驚いたように顔を見合わせた。
「すごい……こんな風になるなんて!」
涼音は控えめに微笑みながら答えた。
「みんなで音を聴き合うことが大事なの。一人で頑張る必要はないからね。」
その言葉に、ギターの青年が目を輝かせながら言った。
「涼音さん、本当にありがとうございます。僕たち、もっと良い音を出せる気がします!」
彼らの熱意に触れ、涼音の胸にも小さな温かさが広がった。
スタジオを後にする頃には、空は夜の色に変わり始めていた。
ギターケースを背負いながら、涼音はふと立ち止まり、夜空を見上げる。
「音楽は、人を救う力を持ってる。私も、その中で救われているのかもしれない。」
彼女の胸には、自分の音楽が他者と繋がる喜びが確かに感じられていた。
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