第18話 妖刀
妖刀を作るのにもっと時間がかかると思っていたが案外すんなりと手に入ったことで気分上々でアド師匠の所に行く。
「おうアカネ。爺さんとこに行ってたのか?」
「はい。妖刀ありがとうございます。打ち稽古しましょう」
「相変わらず話しがぶっ飛んでて断っておくぞ?」
「はい」
打ち稽古は断られてしまったが試し斬りしたい欲が止まらない。
妖刀を見せるとアド師匠も気になって見てくれる。
「これは…魔剣のなり損ないか?」
「違います…妖刀です氷月と名付けました」
「あぁ…それで魔剣が出来たから試しに稽古したかったわけね。でも育ってないだろ?しかも刃先がないし」
「氷の刃が出てきます…なんか色々多機能でしたよ」
「氷か…あの爺さん無理やり魔剣作ったんだろうな…まぁいいけど、それなら鍛錬場行くか?」
「はい」
さすがのアド師匠も新品の妖刀を見たら相手をしてくれるらしい。
早速妖刀の切れ味を確かめなければと、一緒に鍛錬場へ向かって構えようとしたときに鞘がない事に気づく…。
仕方ないので居合よりは不慣れな上段で構える。
「初めてまともな構えを見たな」
「いつも構えてます…今は鞘が無いので」
「あぁ、鞘が無いとあの構えしないのか?それじゃやるか」
今回は受付嬢がいないので、アド師匠が軽く「はじめ!」と掛け声をしてくれて、私も意気揚々と上段からの一撃をアド師匠に向けるもアド師匠は身体強化はしてるものの、いつもの絡め手を使うことなく剣を盾にする動きをしているだけなので思いっきり斬りつける。
すると氷月があっさりと砕かれる…。
再度魔力を込めて斬りつけるとまた砕かれる…。
「アド師匠…氷月が拗ねてます」
「ちげえよ。育ってないとそんなもんだよ。アカネなら強度くらい確認できるだろ?」
「氷の強度なんてこんなものでは?」
「魔剣っていうのは育つと強度も増すし、精度も上がってくるもんだ。俺の魔剣も最初は紙すら斬れなかったからな」
「そうなんですか…」
てっきりもう妖刀として活躍してくれると思っていたら、まだ成長途中だったみたいだ。いつになったら折れなくなるんだろうか。
氷月を撫でながら魔力を込めるが、氷の粒をポロポロと涙を零しているようにしているので氷月も悲しいのかもしれない。
「な、なんか悪かったって…」
「大丈夫です…氷月は毎日折れて強くなっていきますから」
鞘が無いのは不便なので今まで使ってた刀で折れて使わなくなった鞘を氷月にくっつけるが、刀身がないので滑り落ちる。
ずっと魔力を込めてればいいかと思って刃を出してから納刀して。体から少しずつ魔力が吸われていく感覚に妖刀っぽさを感じる。きっとこの子はもっと強くなるに違いない。色んな血を吸わせたらもっと成長するかも。
「しかし魔剣ができたならダンジョンでも行くか?そろそろパーティらしいこともしたいしな」
「はい」
やっぱりパーティを楽しみたいようでアド師匠の言葉に頷くが。洞窟に入ってなにをするんだろうか?多分下手に平地でいるより洞窟のように反響する場所の方が私は動きやすいから稽古にならないと思うが。
打ち稽古に付き合ってもらってるし別に構わないが洞窟はピクニックと言う奴ではないだろうか?
生まれてこの方遠足も行ったことないので何を用意したらいいか。やはりお弁当は欠かせないだろう。
「じゃあギルドに言ってくるから」
「それじゃあ…私はお弁当を作ってきますね」
「ちょっと待って!どこに行くの?」
「ピクニックですよね?」
「ピクニックじゃないかな?ダンジョンだからね?魔物とかいる中で呑気にお弁当食べたりはしないからいつもの干し肉とかでいいよ」
そうか、害獣はダンジョンに住んだりするからそこで鍛錬をしようという趣向だったらしい。それならそうと先に言ってくれたらいいのに。
「思ったんですけどアド師匠」
「今度はどうした?」
「氷月だけ…ご飯がないのもあれなのでマジックポーションを食べさせたいなと」
「食べないからね?魔剣を育てると言っても飲めないから魔剣は」
「そうですか…アド師匠の魔剣にも必要かと思ったんですけど」
「今まで飲ませたことないからね?とりあえずギルドに言ってくるよ」
どうしたら氷月は早く成長してくれるのだろう?魔物の血肉だけ食べさせていたら成長して一気に強くなってくれたらいいな。
受付でなにやらやりとりをしているが、私のタグを最近使ってないけどアド師匠のタグだけでいいのかな?まぁ何もしなくていいならその方がいいか。
用事を済ませてきたアド師匠を迎えて、携帯食量を買い足しに向かってから他に必要なものは無いかと考えたときに懐中電灯は必要かなと探して見つからなかったのでランタンを手に取るとアド師匠が横からランタンを元の位置に戻していく。
「ダンジョン行ったことないのは分かったけど、ランタンなくてもいい場所だから大丈夫だよ?見た目からは分かんないけどアカネは楽しみにしてるのか?」
「いいえ」
「分からない。何を考えてるのか分からないけどとにかく明るいダンジョンだから安心して。暗いところもあるけど俺が明かり持ってるからさ」
「はい」
それもそうか、ダンジョンを提案してきたのはほかでもないアド師匠なのだから準備は怠ってないのだ。むしろ私が行くと言うまで準備だけして一人で楽しみにしていたのかもしれない。
もう少し私も配慮ができるようになろうと干した果実を買い足したりして楽しいダンジョンとやらにしてあげようと思う。
準備を済ませてから黙々とアド師匠にくっついて歩いていると王都の東の方にあるのか王都から離れて歩いて進む。具体的な場所とか聞いてないけどどれくらいの日数がかかるとか聞いておけば良かっただろうか?
「アド師匠」
「ん?」
「アド師匠はダンジョン楽しみなんですか?」
「そりゃまぁ、パーティで行くなんていつぶりだ?俺一人だと宝も漁れなかったしほとんど観光しに行ってたくらいだな」
「宝があるんですか?」
「おうよ。宝箱がなぜかあってな?トラップなんか仕掛けられていたりするから専門職か魔法使いがなんとかしないと危険だったりするんだよ。その中に良い武具や魔道具なんかがあったりと色々金策にもなるな」
なるほど。テーマパークのアトラクションだったのか。それならアド師匠が楽しみにしているのも頷ける。
ただ…一人でテーマパークに行くと言うのは楽しいのか?私も別に興味も行ったことも無いから気持ちは分からないけどそんなに誰かと行きたかったならアド師匠なら誘えば人が集まるだろうに。
確かテーマパークにはマスコットキャラクターなるものが沢山いるはずだ。もしかしたら可愛い生き物もいるかもしれないし、こういう時にカメラとかあれば思い出になるんだろうな。
「アカネはあんまり乗り気じゃなかったか?楽しみじゃないって言ってたけど」
「いいえ。そもそもダンジョンを知らなかったですが…テーマパークと分かったからアド師匠と楽しみたいと心変わりしました」
「そっか…相変わらず何言ってるかわかんねえけど楽しみにしてんなら俺も楽しいよ」
干し果実をあげると「うまっ」と呟いて一緒に食べながら街道をのんびりと歩く。
今日はお天道様も綺麗に輝いているし、きっと良い日になる。
***
夜になっても歩いて、街道から外れた所を進んでいけばテントが複数ある場所にたどり着く。
「今日はここで一旦休憩な」
「地味ですね」
「俺らも似たようなもんだけどな。テント出すけど一緒に休むか?ここなら見張りがいなくても他の冒険者が何とかするとは思うが」
「そうですね…せっかくなので体力を少しでも温存して全力で挑みましょう」
「おう」
そう言ってアド師匠のバッグからぬるっと出てきたテントに驚くも、私のバッグとアド師匠のバッグは見た目こそ違うが同じくらいの容量なのかな?私は肩掛けだが、アド師匠のはベルトが付いてて腰に巻いている。
私もベルトがいいな。いつか盗賊が持ってたら奪えたらいいな。
テントはそこそこ豪華な作りをしている。もっとビニールみたいなものをイメージしていたがしっかりと防水加工されてるような物で雨が降っても問題はないだろう。土砂降りになったら沈みそうなほど、テントの中は散乱してはいるが…。
「適当に寛いでていいぞ?」
「なんというか…汚いですね?」
「一人で使う分には問題なかったらな!少し片すから待ってろ!」
アド師匠にも体が綺麗になる魔法をかけながら私も身綺麗にして、布団はなさそうなので羽織を取り出して布団代わりにする。
「お?他にも服持ってたのか?」
「これは…羽織ですよ?」
「いや、てっきりその服しか持ってないんだと思ってた」
「まぁ…同じのを数着持ってますけど」
「ダンジョンで稼げたらまた新しいの頼んだらいいさ。その頃にはアクセサリーも出来てるだろうしな」
一体どれだけダンジョンを満喫する気なんだろうか。暗くて見えはしなかったが他にダンジョンと呼べそうな洞窟はここくらいしか無かったと思うけど…。
いそいそと何に使うのか分からない物を片づけて少し広くなったテントでアド師匠も寝袋を用意してから慣れた様子で横になり始める。
呼吸音からまだ寝てないのだろうが、私としてはお泊り会みたいなものは初めてなので近くに人がいるという環境が父を連想して懐かしい気持ちになる。
きっと父なら寝ている間も一瞬の隙を許すなと言って木刀を振ってくるんだろう。
「まだ、起きてるか?」
「はい」
「楽しいこと…色々やろうな」
「はい」
まるで子供みたいな発想ではあるが、むしろその楽しい事だけを求める思考こそが強さへと至れる一つなのだとしたら私は剣以外の娯楽を多少は知っておくべきだ。
明日のダンジョンをまずは…そう思いながら仮眠を取り。夜が明けていく。
アド師匠も仮眠をとっていた途中からちゃんと睡眠の呼吸に入っていたので休まったことだろう。
周りのテントでは色々音がして焚火の木を燃やす音。食事を作る音。鎧の擦れる音から武器を手入れする音。何もかもが新鮮な気分を味わっている。
これにも楽しいというものを感じるコツがあるはずだ。
周りの音を聞きながら時間を過ごすとアド師匠が起きてきたので互いに体を綺麗に魔法を掛ける。
「起きてたのか…ちゃんと眠れたか?」
「はい」
「そうか、それならダンジョン行ってみるか」
まだ眠気があるのか体を怠そうに動かしながら荷物の整理を始めるので私も服装を正してから羽織もバッグに入れておく。
最初は露出が多いと言うのを苦手意識があったけど触感から伝わる情報に個人的に気に入ってしまって羽織をなんだかんだ着ようとあまり思ってない。
いずれは寒くなれば着るのだろうけど…そう言えばこの国は雪がどれくらい降るのだろう?降雪具合によっては冬までに貯蓄して越冬準備をしなければいけない気がする。
ずっと手元に置いていた氷月に魔力ご飯を上げながら刃の強度を確認するが、普通の氷だ。
冷えた飲み物を欲しいときは便利だろうけど今のままでは突き刺す以外だと壊れてしまいそうだ。残念ながら私に突き技は無い。刺突系の技は父に禁止されていたため一切持ち合わせてない。
アド師匠が準備を済ませたようなのでテントから離れて回収したあとにダンジョンの方を向いて挑むことになる。
「とりあえず注意事項だけど、離れ離れになることは禁止な?それと他の冒険者かダンジョンの調査隊か知らない連中がいると思うけどあまり関わらないで進んでいくぞ」
「はい」
魔物がいるとのことなのであまり近づきすぎないよう一定の距離感で二人一緒にダンジョンへ入るが、入口付近が暗かったのに対して中へと歩むと洞窟の壁そのものが明かりとなっていてどういう原理か分からないまでも視界は確保できる。
音も問題はなく洞窟という都合上私の聴覚が範囲を広げて奥の方まで感知できるようで人間や魔物が確認できた。
「早速だけどアカネならどんな風に攻略していくか見せてもらっていいか?」
「はい」
たしかにアド師匠は一度遊んだことがあるなら私が積極的に遊ぶべきだろうと思い、前進していくが。心音を確かめて魔石を確認してから洞窟の隅の凹凸に潜んでいた魔物がこちらに飛び掛かると同時に喉元に氷月を構えて慣れない刺突を繰り出して喉を抉る。ただ抉ろうとすれば刃先が折れてしまうので完全に仕留めるために氷月を魔物の内臓各所に突き刺しておく。
毛深いゴブリンだ。ただ毛深いとは言っても腹や胸は毛深くなく柔らかい。
「大丈夫だとは思ってたが…コボルト相手に刺突はおすすめしないぞ?」
「氷月に血肉を食べさせないと…」
「発想がこええよ!魔剣が嬉しいのは分かるけど普通の剣使ったらどうなんだ?」
「さすがに…勝てない相手にはそうしようと思います」
「んー…油断はするなよ?」
「はい」
潜んでいた毛深いゴブリンが先にも数体潜んでるようで、瞬殺とはいかないが氷月に血肉を覚えさせるように多少苦しめることになるのは承知で喉、肺、胃、腎臓、肝臓、心臓と美味しく食べてもらうために刺していく。
複数体相手の際は両眼を潰してから分断できたのを確認してから同じ手順を踏む。
これは…魔物を探さなくても良いから修行の場所としてかなり適しているかもしれない!あちこちにいる!
「その…魔剣に拘るのやめないか…?」
「氷月が泣いてしまいます」
「その涙みたいに零してる氷もアカネがやってるだけだよな?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます